中国・河北から東北の旅
☆7/5更新☆

第1回 「戦争と医学 訪中調査団」結成のいきさつ
 

「十五年戦争と日本の医学医療研究会」

 今回の訪中調査を取り組んだ「十五年戦争と日本の医学医療研究会」が産声をあげたのは、敗戦から55年を経た二十世紀最後の年2000年3月であった。京都の同志社大学で行われたその第一回研究会への参加者は30人くらいであったが、医学者の戦争責任を明らかにしないうちは次世紀を迎えられないという熱気に満ちていた。医学界としてこれまであいまいにしてきた戦争問題について本気で考えようという趣旨に大賛成の私は、翌2001年4月の第90回日本病理学会総会には、病理学会の戦争責任を問う内容の発表を行なうなどして、この研究会の活動に参加してきた。「会」の設立から4年目の今年、中国を実際に訪問して、現地の研究者や被害者との交流を深める中で研究の質的発展をはかろうという目的で、今回の訪中調査団結成となった。私も当然のようにこの調査に加わった。

 今の時期、皇国史観による歴史教科書の公認や、首相の靖国神社参拝、イラクへの自衛隊派兵とさまざまの問題が相次いで生じ、「憲法」さえもが危うくなってきている折り、歴史から学んで、今後の日本の進む方向を誤らないことが大切だ。それは政治の問題であるとともに、医療倫理の原点でもあり、また中国と真の友好関係を築き、国際平和に貢献する上からも不可欠だ。

 団員は、医師や大学教員、医療倫理や近現代史の研究家、戦跡研究家、労働と健康の仕事に関わる人など総勢9人である。4月18日から28日まで10泊11日の日程で調査研究を行なった。

関西空港を出発する団員たち(左端筆者2004.04.18) 

 多くの人たちに伝えたい重要な事柄を学んだ旅行であった。このコーナーの連載では、戦争責任の問題を皆さんと一緒に考えようと思う。内容については以下のような構想を抱いている。基本的には旅の順序に従いながら、個人的感想を折り込んで、大戦当時の事情に詳しくない人にも読みやすいものにしたい。写真も大いに活用したい。

旅のはじまり

 回る先は、北京、石家庄、藁城(こうじょう)、チチハル、ハルピン、、平房、瀋陽、撫順とは分かっていても、だれがどこへ連れていってくれるものやら、だれが説明してくれるのやら、調査団といったって何ができるのかと全くわけの分からぬままの参加であった。今回のコースを地図で示す。

(図の拡大)

 北京着は4月18日午後4時。28℃と夏の暑さだ。空港には、今回の旅行の計画を立てて下さりずっと一緒に回っていただけるという対外友好協会の方が迎えにきてくれていた。この方が黄嵐庭さんで、これから11日間御一緒することになった。通訳は邵(しょう)さんで、見識が広く日本語が達者である。

 早速の晩餐会には、中日友好協会副会長で周恩来研究家でもある王女史が参加され、話に花が咲いた。小泉首相の靖国神社参拝や歴史教科書の問題に話題は及び、「日本政府の戦争の不反省についてはどうしても言っておきたい。これは内政干渉ではない」と強い口調で話された。

対外友好協会の歓待を受ける(北京)

 こうした団体や省や市の招待によるお偉方が加わっての晩餐会は、旅行中各地で計6回催され、これも大きな驚きであった。
 こうして北京での第一日目は暮れた。今後も過密スケジュールが予想はされたが、それは予想をはるかに上回るものであった。

(次回は7月9日更新予定です)

筆者紹介
若田 泰
医師。近畿高等看護専門学校校長も務める。
侵略戦争下に医師たちの犯した医学犯罪は許しがたく、その調査研究は病理医としての使命と自覚し、医学界のタブーに果敢に挑戦。
元来、世俗的欲望には乏しい人だが、昨年(03年初夏)手術を経験してより、さらに恬淡とした生活を送るようになった。
戦争責任へのこだわりは、本誌好評連載「若田泰の本棚」にも表れている。

 
本連載の構想

第一回
「戦争と医学 訪中調査団」結成のいきさつ

第二回
1855部隊と北京・抗日戦争紀念館

第三回
北京の戦跡と毛沢東の威信

第四回
石家庄の人たちの日本軍毒ガスによる被害の証言

第五回
藁城(こうじょう)中学校をおそった毒ガス事件

第六回
チチハル 2003.08.04事件

第七回
「化学研究所」またの名を五一六部隊

第八回
七三一部隊

第九回
戦後にペストが大流行した村

第十回
凍傷実験室

第十一回
「勿忘(ウーワン)“九・一八”」 9.18歴史博物館にて

第十二回
残された顕微鏡標本――満州医科大学における生体解剖

第十三回
人体実験に協力させられた中国人医師の苦悩・・・満州医科大学微生物学教室

第十四回
遼寧(りょうねい)省档案(とうあん)館

第十五回
白骨の断層 平頂山事件

第十六回
戦犯管理所での温情を中日友好へ

第十七回
戦争記録の大切さと戦争責任追及の今日性

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