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☆2020/3/20更新☆
【読書雑記621】『東京セブンローズ 上・下』 (井上ひさし、文春文庫、640円+税、560円+税)。戦局いよいよ見通しのない1945年の春。東京・根津の団扇屋主人の日記には庶民の暮らしが綴られていた。物資も食糧も乏しい生活の中で、笑いを求め、シャレを愛する戦時下の日本人がそこにいた。その姿はいとおしい。執筆から17年にして完成した井上文学の最高傑作とも言うべき作品。面白く、庶民の目で歴史が学べる。井上ひさしという作家の凄さに触れることが出来る。
物語は終戦の前後の東京と日本人を描いている。日本はB29の爆撃を受け、多くの命が奪われた。一方では、ひっくりかえるようなアイデンティの危機を迎える。作家は善良な市民の団扇屋の平山さんに語らせる。平山さんは日記を書くことが趣味で、この小説は平山さんの日記が語るという形式になっている。ひさしの文章と共に1945年を体験できる。日記は4月に始まり8月15日を挟んで戦後も続く。
著者は、旧漢字を使ってこれを書いた。文字によっても時間をさかのぼったような感じになる。 旧かな旧字体で綴られる戦時下、あるいは戦後の東京の庶民生活の生活がひどかったかが記憶に残る。主人公は歴史の荒波で何度も日記を(すなわち本文を)書けなくなる。投獄されるからだ。“日本語カタカナ化ローマ字化計画”が、主人公とその周りの人々によって妨げられる経過が綴られる。物語も面白い。同時に井上ひさしの日本語に対するこだわりや美意識が詰め込まれている。至福の読書、快作。
Smart Renewal History by The Room
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