編集長の毒吐録
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☆2020/4/14更新☆

【読書雑記627】『日本思想史 (末木文美士、岩波新書、880円+税)。王権(天皇、将軍)と神仏の双方を仕組みとして日本社会は成り立ってきた。本書は、その構造と大きな流れを分析し、日本思想史の見取り図を描き出す。今を理解するための知識が得られる。

著者は戦後を「小伝統」と定義する。タテマエは理想主義で、本音はアメリカ依存の半独立状態、天皇は議論外と捉える。この状態は神仏無視であり、これは「小伝統」の崩壊状態とする。

しかしながら、大きな問題にもかかわらず、十分には記述されない。王権と神仏を双極に置く大伝統の考え方は面白い。この捉え方は本書の白眉。大伝統の中の神仏、王権の緊張関係の弱まった時代、つまり江戸時代は、世俗の場での思想展開だった。

@王権と神仏の相関関係で捉える日本思想史の視座は適切である。日本仏教は、鎮護国家のための仏教として王権(天皇)によって導入されたからである。僧侶もはじめは官僧であり、教学としての仏教が学ばれた。近世になると、朱子学は幕府の官学とされ、為政者のための学問と見なされた。王権によって導入された仏教・儒学が、民間に定着して宗教としての日本仏教が成立した。

A王権と神仏の関係・相互作用として日本思想を捉えるのは有効だが、新たな視座も必要ではないか。外来思想の受容によって日本文化の基盤が形成され、日本独自の思想を生み出すと同時に、新たな外来思想を受容する基盤となった。

B古代における仏教・儒教の受容が日本独自の日本仏教を生み、神仏習合も可能にした。近世における朱子学の受容が日本独自の近世儒学の形成やそれを批判する国学思想を生んだ。C日本文化の「重層的性格」は、本書の記述を補う。

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