編集長の毒吐録
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☆2020/4/23更新☆

【読書雑記630】『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』 (佐々木実、講談社、2700円+税)。宇沢弘文は「日本で最もノーベル経済学賞に近い学者」と言われ続けた。その人の評伝。前半は宇沢の生い立ちからアメリカでの活躍を描き、後半で、40歳を迎える年に日本に戻り、新古典派経済学への懐疑から、「社会的共通資本」の理論構築と社会的実践を描く、画期的な書。難解とされる氏の経済学を、時代と絡めながら解説する。

書名には、「資本主義と闘った」とあるが、宇沢は「共産主義者」ではない。闘った相手は、市場原理主義であり、新古典派経済学である。そして宇沢は「公平」に共感した。公平や共感を破壊する者と闘った。マクロ経済学をミクロ経済学によって基礎付ける端緒を開いた宇沢は、世界の経済学の中心地にいた人であり、彼を描くことは、世界の戦争や人類の問題に関する近現代史を描くことに通じる。

アメリカでは、ケインズ主義派と新古典派が争っていた。後者の側では、市場万能論を唱えるミルトン・フリードマンが台頭していた。そして、それはのちに、レーガン大統領の「新自由主義」政策として支配的となった。宇沢はフリードマンの市場万能論に対して、ケインズ主義によって対抗するのではなく、そのいずれをも批判するような視点に立った。しかし、それを理論化する前に、突然、日本に移動した(東大助教授)。日本で取り組んだのは、水俣の公害問題や三里塚の空港問題であった。

宇沢の「理論」の下敷きに、経済学に向かう前に出会ったマルクス≠ノあるのではないか。マルクス≠ヘ、生産や生産関係だけでなく、人間と自然の交換(代謝)を根底におく考えである。宇沢の「社会的共通資本」という概念は、それを理論化したものだといって良いのではないか。そのことを考える場として、日本を選んだとは本書を読んで感じたことだ。

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