編集長の毒吐録
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☆2020/8/29更新☆

<アベ退陣の報を聞きて>【読書雑記666』『小説をめぐって』 (井上ひさし、岩波書店、2000円+税) 。井上ひさしは、多くの小説を著した。本を愛し、豊富な読書量でも知られた。その著作から、小説をテーマにまとめた本。雑誌などで好評を博しながら、著書に未収録の作品から選び、テーマ別の三冊に編んだがこれはその一冊。

本書には、創作の原点である山形小松・仙台のこと、書評・文庫解説、同時代の作家との交友、自作に関する「作者のことば」などを収録されている。稀代の作家は、どのように書き、どのように読んだのか。本書で特に気になったのは(ほかに若尾文子、吉村昭、丸谷才一)、松本清張、米原万里に関する文章。

「『昭和史発掘』、史家への出発」は、こう結ばれている。「もちろん、松本清張は桁外れにすぐれた小説家であるが、じつは根気のいい史家でもあった。この『昭和史発掘』には、本格的な史家の方角へも向かいつつあった松本清張の、あふれるほどの熱量とたくさんの発見が、いまなおぶつぶつと煮えたぎっている」。井上の松本に対する尊敬の念がひしひしと伝わる。

「導きの糸 (『米原万里、そしてロシア』に寄せて)」では、米原万里の生き方を的確に捉え、「なにかコトにぶつかったときは、そのコトガラをまず正面からじっと見つめて、つぎに横から思案し、斜めから確かめ直し、さらには裏から検証して、考えるだけ考え抜いた末に、自分の意見をしっかりと築き、それからはもう大胆不敵に発言する、あるいは一心に書き綴る。これが米原万里さんのやり方でした。・・自分の意見や知見をじかに露出せずに、風刺や皮肉や哄笑にくるんで、諧謔の精神をもって提示する。これも米原万里さんの方法でした」と書く。作品を通じての人間観察が光る。

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