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☆2020/10/9更新☆
【読書雑記676】『猫を棄てる 父親について語るとき』 (村上春樹/著・ 高妍/イラスト、文藝春秋、1200円+税)。「時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある。ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は過去のものではない。このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた」とは著者の弁。
著者の父は、子ども時分、寺に修行のような形で追いやられ、なんらかの辛い経験があって、家に戻された(それがどういうことかはわからない)。俳句好きでかつ勉強が好きな父は戦争体験を持つ(途中で一度上官の好意で除隊を許される。しかし、その理由には日付などの点で矛盾があり、その謎は解けないと著者は言う)。父親の望んだような生き方をしなかった著者と父は疎遠になり、絶縁状態は20年も続いた(但しその具体的な理由について、著者は語らない)。そして、ようやくにして、死を前にして父と再会し「和解」した。
戦争体験が詳しく記述されるが、それはほとんどが父の口から語られたものでなく、著者が調べたストーリーでしかない。そこには、父の心との接近、触れ合いも何もない。著者が記録と記憶を基に紡ぎ出した「父の姿」だ。だからか、心に響くものが無く、記録としか感じられない。胸打つものが無いのだ。著者は何故、これを書いたのだろうか?
Smart Renewal History by The Room
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