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☆2020/10/13更新☆
【読書雑記677】『兵士たちの戦後史 戦後日本社会を支えた人びと』 (吉田裕、岩波現代文庫、1540円+税) 。<アジア・太平洋戦争を戦った兵士たちは敗戦後、市民として社会の中に戻っていった。戦友会に集う者、黙して往時を語らない者……戦場での不条理な経験は、彼らのその後の人生をどのように規定していったのか。「民主国家」「平和国家」日本の政治文化を底辺からささえた人びとの意識のありようを「兵士たちの戦後」の中にさぐる>とは出版社の惹句。
本書は、アジア太平洋戦争から復員した者の、戦後の生活や職業の変遷を追った単純なものではない。戦友会、遺族会、旧軍人団体などの会報の記事や投稿を材料に、その意識の変化を捉えたものだ。復古主義的で戦争の肯定・賛美しがちと思われている団体だが、丹念に見て行くと、その時々の日本の社会における戦争観との微妙な相互反映があり、職業軍人と応召者、将校と下士官・兵と言った立場の違い、戦った戦場などによって大きな差異があることが分かる。力作。
大雑把に言えば、1960年代までは、「侵略戦争か自衛戦争か、国家指導者の戦争責任問題はどうなるのか、と言った戦争の評価の問題は完全に封印した上で、戦没者の「強き願い」に応える為に、「祖国の平和と繁栄」を実現しなければならない・・」と言うのが一般的理解だった。戦没者の遺族が健在である上、復員者同士の批判で波風を立てたくない。そう言う意識が強く作用していたと著者は言う。70年代には、日中国交回復が実現し、他のアジア諸国を含めて、戦跡訪問・慰霊が可能になると、現地の国民感情・住民感情との軋轢・摩擦を避ける為に、侵略戦争であったことや戦争犯罪を正面から否定し難くなる。
だが、「一握りの政治家と軍の指導者達が悪いのであって・・侵略戦争と言う認識は見られるものの、自己の責任に対する自覚は希薄である」。「「遠くない過去の一時期、国策を誤り」としたいわゆる「村山談話」とも、それほどの距離はない。しかし、「侵略」と一方的に断罪されることは、自らの存在そのものを否定されたように感じられて反発すると言う意識のありようが読み取れる」と著者は言う。
Smart Renewal History by The Room
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