編集長の毒吐録
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☆2020/10/24更新☆

今回の買い物の「メイン」は、なんと言っても『加藤周一を21世紀に引き継ぐために』(水曜社)です。内容もさることながら、6000円という価格です。6000円!!ですよ!!この本は、昨秋2019年、東京と京都で行われた、加藤周一生誕100年(1919年9月19日生れ)を記念した国際シンポジウムの記録です。京都でのそれには参加できたのですが、東京での会合は欠席でした。

目次・・まえがき―加藤周一の呼びかけに応える「少数者」たちの輪/ 第1部 加藤周一の知的遺産と世界の中の日本(「雑種文化論」の射程/ 私たちが加藤周一に負うもの/ 加藤周一をめぐる誤解を晴らす/ 加藤周一を批判的に継承する/ 加藤周一における文学と政治/ 加藤周一を超えて考える、世界の中の日本)/ 第2部 東アジアにおける加藤周一(加藤周一生誕百年記念講演会へのメッセージ/ 講演/ パネルディスカッション/ 寄稿)/ あとがき―加藤周一の呼びかけに応じ「少数者」の矜恃と連帯を保って

本書には、加藤の「知的遺産」を東アジアや世界の中でとらえ直し、今後にいかすことを目的に開かれたシンポが記録されています。三浦信孝・鷲巣力が編にあたり、樋口陽一、小熊英二、イルメラ・日地谷=キルシュネライト、水村美苗、片岡大右、海老坂武、白井聡、孫歌、池澤夏樹らが論じています。そこでのキーワードの一つは、加藤の言う「高みの見物について」です。歴史学者の成田龍一が、「決定的な一編」と評価している概念です。フランス留学中の加藤が雑誌に発表したのが初出です。加藤は主張します。留学は現地社会に加わらないから、必然的に「高みの見物」になります。現地の問題への見解は正確になるが役に立ちません。加藤は「いくさ」に対する自分の態度も、高みの見物だったと振り返ります。医学生や医師として過ごした戦時中から日本は負けると見通しており、それは合理的な推論の結果と思っていたが、それは、民主主義の勝利を希望する直感が先に存在したからだと言います。小熊英二は、この合理的推論と希望的直感は、後に『羊の歌』で戦時中の議論を回顧しながら述べた「事実判断」(不利な戦局)と「価値判断」(必勝の信念)に相当すると指摘します。

「高みの見物」という態度の積極的な意義を、日本の知識人の宿命と絡めて報告したのは白井聡です。対象を正確に認識するには距離を取らなければならない。それが「高み」だ。ところが西洋由来の学問を修める日本の知識人は対象に一辺倒になるか、日本に回帰するかの二者択一に陥ってしまう。高みの見物という主体を自己批判的に指摘して、知識人の宿命を遠ざける第三の道を提示したのが加藤だと氏は主張します。

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