|
<<前のページ
☆2020/11/13更新☆
【読書雑記687】『四十一番の少年』(井上ひさし、文春文庫、610円+税)。著者、最高の名作の一つ、自伝的要素があるように思う。児童養護施設に入所した中学生の利雄を待っていたのは、同部屋の昌吉のするどい目だった。今の境遇から這い上がろうとする昌吉が事件をまねく表題作の他、養護施設で暮らす少年の夢と残酷極まりない現実を描いた3作品が胸に迫る。
〈井上ひさしというのは稀代の物語作家であることを忘れてはいけない。これは稀有の「物語作者」がどのように誕生したか・・その恐るべき辛酸の過程をつぶさに描いた「物語」なのである。・・3篇の奥底に隠された秘密を解き明かす共通のキーワードは「嘘」だ>(「解説」)
「喜劇」と「悲劇」は紙一重というが、ひさし作品は、「悲劇的」である出来事を「喜劇」としで処理する。利雄が駅から孤児院へ向かう冒頭の描写のスケッチのさみしい心根をリアルに描いた手法や見事。フィクションだが、リアルさ満載。作家としてのひさしの才能が遺憾なく発揮された作品になっている。ひさしは、言葉や表現の選択に慎重な姿勢で臨んでいるが、それらが洗練された文章で、かつ五感の全てに訴えるような書き方になっているので非常に読みやすい。ひさしの作品には、小説にもすばらしいものが沢山あるという証拠作品。短編「あくる朝の蝉」は以前中学校の教科書にも採用されていた名文で、一見すると単純な作品だが読み深めていくととても興味深い。
Smart Renewal History by The Room
|