編集長の毒吐録
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☆2019/8/29更新☆

【読書雑記564】『南京事件論争史 日本人は史実をどう認識してきたか 』(笠原十九司、平凡社、1500円+税)。1937年12月、日本軍は南京市を占領した。敗残兵や投降した中国軍兵士と捕虜、一般市民を殺戮・暴行し、多くの犠牲者を生んだ。南京事件は当時の資料からも明らかな史実であるにもかかわらず、日本では否定派によって「否定」され、「論争」が続けられた。本書は、事件発生時から現在までの経過を丹念にたどることで、否定派の論拠の問題点とトリックを暴き、「論争」を生む日本人の歴史認識を問う。好著。

日本ではこの事件が「右派」に、存在しなかったかのように扱われる。日本政府も公式に認め、謝罪している事件にも拘わらずに、だ。著者は、事実経過とその後の日本での「南京の記憶」の抹殺過程を、東京裁判、サンフランシスコ講和条約、冷戦の開始と日本の「逆コース」の流れに沿って考察する。

東京裁判の南京での虐殺行為の有罪判決を日本政府は認め、サンフランシスコ講和条約の11条でも南京での犯罪を認めた。しかしながら、その後、教科書にこの事件についての記述がなかったりして、日本人はこの事件について知らないようにされた。

著者は、日本人が南京事件を記憶しない主な理由を事件当時の、報道の禁止が一番であるとする。これを知らせる出版の禁止、典型として石川達三の『生きてゐ兵隊』の出版禁止などがあげられる。東京裁判の消極的な報道、逆コースによるアメリカ側の真実追及の弱化、55年体制後の右派政党の「逆宣伝」など・・。

虐殺人数が30万人でなかったとしても、南京大虐殺事件が無かったことにはならない。人数の多少ではなく、日本軍が南京において、虐殺事件を引き起こしたことこそが問題の本質だ。著者は、歴史学の正しい方法に沿った学術的な論証を重視している。これまでの「否定派」の言説が、粗雑である事への憂いや怒りが本書から伝わる。

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