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☆2019/11/26更新☆
【読書雑記590】『鴎外・茂吉・杢太郎 「テエベス百門」の夕映え』 (岡井隆、 書肆山田、4800円+税)。サブタイトルは、杢太郎が鴎外を評した言葉「森鴎外は謂はばテエベス百門の大都である」に由来するらしい(テエベスとは古代エジプトの首都テーベのこと)。茂吉もまた別の道を取って、やって来た。
三人の足跡は絡み合う。混迷の時代を生き抜く姿を、作品・日記・書簡・歴史記録から追う書。「大都」たる創作者三人の森へ、著者の思考と筆は分け入る。そして著者は、杢太郎も、さらには茂吉もまた、全貌が見えにくい百門の大都テエベスであると語る。
著者は「あとがき」で、「ここでわたしが話そうとした物語の主人公は、鴎外森林太郎、太田正雄こと木下杢太郎、そして斎藤茂吉の三人である・・しかし、物語の本当の主役は〈時代〉の雰囲気だったのではあるまいか。明治という時代が終り、大正時代が始まる。そして第一次世界大戦に入って行く。簡単に一つのコンセプトでは律し切れない過渡期である」と言っている。
著者が、「〈時代〉の雰囲気」という言葉にこめた思いはそれほど単純ではないだろう。「鴎外論」「茂吉論」「杢太郎論」といった個々の評論では見落としてしまうもの、また三人をめぐるエピソードの集積では届かないものがあることを、著者は意識しているのだろう。医学者であり文学者であった彼ら三人にとって、医業も文学もどちらも「生きる」ための副業だと位置づけ、しかも杢太郎だけが皮膚科学という外科系の学問であったことが、衛生学者・鴎外、精神病医者・茂吉とは違った条件を生んだのではないかという視点は、同じく医学者であり、文学者である著者(岡井隆)ならではのものだった。医者にして文学者である三人―鷗外・茂吉・杢太郎―の第一次大戦にいたる10年に思いをはせた随想を面白く読んだ。
Smart Renewal History by The Room
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