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☆2019/12/10更新☆
【読書雑記594】『中島敦の朝鮮と南洋 二つの植民地体験 シリーズ日本の中の世界史B』(小谷汪之、岩波書店、2400円+税)。「李陵」「光と風と夢」などで知られる作家・中島敦は、少年期を日本統治下の朝鮮で過ごし、のちに南洋庁編修書記としてパラオ諸島に赴任した。こうしたことが中島の作品にどのように反映されたのか、さらにはどのような意味を持ったのかを、中島の二つの植民地経験を追体験することで、戦争と植民地支配の問題を問い直した意欲作。
類書にはない視点から、植民地の姿と現地に居合せた知識人の植民地感を見直す好著。斬新な切り口が光る。朝鮮と南洋という、戦前の日本が支配した二つの植民地での、中島敦の足跡を作品などを通じてたどり、統治制度や支配体制を、正面からではなく、側面から描いた。
本書は、評論集、エピソード集といった感が強く、支配者と被支配者、加害者と被害者といった切り分けだけでは見えないものも見える。<中島の「朝鮮もの」と、「南洋の日記」や南洋からの手紙の本質的な違いは、「朝鮮もの」が反芻された朝鮮体験の表現であるのに対して、「南洋の日記」や南洋からの手紙は「生」のままの南洋体験の表現である>と著者は評している。
支配者である日本人旧制中学教師の子息として中学までを送り、植民地支配の実態を知り、内地の旧制高校で、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件などの知識を得た上ゆえか、朝鮮支配への認識は批判的であり厳しい。しかしながら、現地向け国語(日本語)教科書の改善の為に、南洋庁から派遣された南洋体験は、南海の楽園」を旅する中で、そうでもないなと思うようになる。1941年6月に出発し、サイパンで開戦を知り、1942年3月に内地に戻る。南洋群島の部分が本書の読みどころと言えるだろう。
Smart Renewal History by The Room
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