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☆2020/2/4更新☆
【読書雑記608】『三題噺』(加藤周一、筑摩書房、780円+税)。官を辞して三十余年、日々の暮しを工夫する石川丈山、僧侶の身ながら森女との関係を大事にした一休宗純、『翁の文』『出定後語』を著し、儒教・仏教・神道を批判した江戸時代の大坂(大阪)の儒者富永仲基。本書は3人、とりわけ残されているものが少ない富永仲基を詳しく論じる。日常的・官能的・知的な3人の人生を切りとる創作でもありエッセイでもある。
江戸時代初期、京都詩仙堂に住んだ石川丈山を扱う「詩仙堂志」、室町時代、頓智で名高い一休禅師を、その晩年に交渉のあった森女がわから描く「狂雲森春雨」、大坂の儒者富永仲基の関わりのあった人々の「証言」からなる「仲基後語」の3篇からなる。彼らは、自らの人生に「こだわり」を持って生きた。丈山は、日常的人生を、一休は森女との官能的人生を、仲基は、知的人生を送った。その「こだわり」の中で、丈山は、自分の中の他者、一休は、彼が愛した森女、仲基は、親族や大坂奉行所の役人、ひいては同時代の異端の思想家、安藤昌益まで他者との「かかわり」まで描写は広がる。彼らの「こだわり」が鮮明になる。本書は、そんな知的な好奇心を呼び起こしてくれる。
丈山、一休、仲基の、日常的人生、官能的人生、知的人生を写す。それぞれが絶対に孤独な人生の極限の姿であり、この場合の孤独とは、主人公の世界に他の人格との関係が決定的な要素として含まれていないことを指す。 詩仙堂(友人の実家だった)や酬恩庵(一休寺)へは、訪れたこともあるので物語に入り込みやすい。一方、夭折した仲基は、同著者の芝居を東京で観たことがある。独創的な思想史家であり、著者の筆で、興味深い人物として描かれている。
Smart Renewal History by The Room
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