編集長の毒吐録
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☆2020/3/17更新☆

【読書雑記620】『井上ひさしの劇世界』(扇田昭彦、国書刊行会、3000円+税)。著者は、朝日新聞学芸部の記者として井上ひさしの劇を観つづけ、彼の台本や小説を読んできた演劇評論家。著者が、新聞、文庫本の解説などに書いた劇評、書評、井上ひさし論をまとめたのがこの本。

巻末の年譜を含め読み応えのある500頁の本、面白い。井上ひさしは、この一冊に収まるような作家ではないが、読者がひさしを振り返るガイドブックとして欠かせない図書と言えるだろう。

 ひさし作品は、日本国と日本人の戦争責任、あるいは国家と日本国憲法、言葉や農業、東北地方と宮沢賢治、芝居と作家論などが多くあり、それらを「やさしく、ふかく、ゆかいに、まじめに」伝えてきてくれた。本書には、井上ひさしの初期の作品は、キリストを下敷きにしているとの指摘があるが、それを、著者は1975年に書いている。新発見だった。ひさしの初期作品の主人公にも東北出身者が多く、東京あるいは江戸に来て、無残な目にあったり、殺されたりする。それは敗北なのだが、ただの敗北ではなく、硬直した考え方に風穴を開けようという試みだった。

著者は、「井上戯曲の主人公たちは、基本的には、異界から立ち現われ、『地方』的な活力をふんだんにそなえたヒーローなのだ。井上戯曲とは、『地方』と『中央』とがつねに食うか食われるかの、決して果てることのない凄絶な闘いをくりひろげている場のことである」と言っている。

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