編集長の毒吐録
<<前のページ

☆2019/3/31更新☆

龍安寺(りょうあんじ)に、春を見つけに出かけた。お庭に桜が遠慮がちに咲いていた。「見て見てどうよ!」ということでないのが好ましい。『飢餓海峡』『五番町夕霧楼』などの小説でも名高い作家・水上勉は生誕100年(1919年3月8日)を迎えた、すぐ近くの等持院に小僧として入り住まった。その彼の代表的作品に『櫻守』がある。私見によれば、この小説は、水上の代表作の一つ、桜を巡る人の人生と思い、哀歓がつまっている。

丹波の山奥で大工の倅として生れ、京都の植木屋に奉公、以来、48歳の生涯を終えるまで、ひたすら桜を愛し、桜を守り育てることに情熱を傾けた庭師・弥吉が主人公。その心根が、自然への思いとともに、美しい言葉で綴り上げられる。世相描写も挟みながら、「関西弁」で話しは進む。主人公は、最終的には京都を生活の舞台とする。京都で、美意識と価値観を育てていく。万博を前にした1969年に発表されたのも象徴的だ。

この小説も、詩的で情感で満たされている。作者の桜と職人と京都への熱意あふるる作品といえよう。花を咲かせ、生き続けるあの櫻、この櫻。自然の静かな息吹の中で、宿命を背負って生き、消え去ってしまうもの、残るものが浮き彫りになる。まるでシンフォニーのように・・。随所に散りばめられた桜のエピソードも素晴らしく、桜の景色が目に浮かぶ。淡々と綴られる中で、水上勉の“人間賛歌”の作品。

Smart Renewal History by The Room

閉じる

First drafted 1.5.2001 Copy right(c)福祉広場
このホームページの文章・画像の無断転載は固くお断りします。
Site created by HAL PROMOTIN INC