編集長の毒吐録
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☆2019/6/25更新☆

【読書雑記547】『銀河を渡る 全エッセイ』(沢木耕太郎 、新潮社、1800円+税)。ファンにはたまらない本。『深夜特急』で訪れなかったマラケシュへの旅、『一瞬の夏』からの人生を生きるボクサーへの夢、「深い海の底に」旅立った高倉健へ贈る最後のメッセージなどを収める。

<二十五年という、そう短くはないこの年月の中で、変わらなかったことがひとつある。それは、私が常に移動を繰り返してきたということだ。ここではないどこかを求めて、というほど初々しくはないにしても、こことは異なるどこかへ行きたい、という好奇心が消え失せたことはなかった。それが私に繰り返し繰り返し海を渡らせた。こことは異なるどこかへの旅をしても、やはりしばらくすればここに戻ってくる。しかし、それは、ここが離れがたい宿命の土地と感じられているからではなかった。どこかに行き、ここに戻ってくるたびに、ほっとするということはある。しかし、同時に、ここが、他のどこかとほとんど等価になっていくような感覚が生まれてくるのを覚えつづけてもいたのだ。ここが常に帰るべき場所というのではなく、単に出発すべき場所として存在するようになったということでもある>

色川武大を悼んでマカオでバカラのテーブルに座る。衆院議長公邸で旧友と会う。残してきた心を取り戻すためにマラケシュへと向かう。金メダル直後の野口みずきに高橋尚子について聞く。モハメッド・アリの拳を眼前で見つめる。冬の夜の帰路で今川焼を頬張る。自前の御伽話で寝かしつけていた娘から、長い時を経た後でモーニングコールを頼まれる・・。

人物を描く方法は2種類あると作家は言う。作家が「描線で輪郭を作り上げてゆく」なら、小説家は「心臓にぴゅっと針を刺し、噴き出した血の赤さが人間になる」。「僕もノンフィクションの書き手として描線で人の形を整えていく。そのあとでぴゅっと刺したくなる。心臓に向けて、1本だけね」

Smart Renewal History by The Room

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