あんな本、こんな本
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『非戦』
監修 坂本龍一+sustainability for peace
  本書は、昨年の9月11日、WTC(世界貿易センター)のテロによる炎上、崩壊に衝撃を受けた音楽家・坂本龍一氏が「真実」を見極めようと、友人達とメール等による意見交換をしている中で集積した論考や記事を一冊の本としてまとめたもので、「sustainability for peace」とは、本書の監修・編集・翻訳を担当したグループの名前である。

 執筆者は、坂本龍一、村上龍、マドンナ、オノ・ヨーコ、TAKURO、桜井和寿、大貫妙子、佐野元春、バーバラ・リー、梁石日、辺見庸、重信メイ、マーチン・ルーサー・キング、ジョン・ビルジャー、中村哲、山本芳幸、ヴァンダナ・シヴァ、キャット・スティーヴンズ、加藤尚武、上村英明、リゴベルタ・メンチュウ、エドウアルド・ガレアーノ、佐久間智子、ロバート・M・ボウマン、小林一朗、チャルマーズ・ジョンソン、青山貞一、羽仁カンタ、宮内勝典、A.Tアリヤラトネ、星川淳、ポール・ホーケン、田中優、マハトマ・ガンジーなど多彩である。

 上記の名前を見てもわかるように、それぞれの執筆者の思想信条は、決して一致しているわけではない。しかし、WTCの炎上、崩壊を行ったテロへの怒りと、それに伴う、米国の報復戦争へ疑問、反対の意思を一致して表明している。それぞれの文章は、まさに、オーケストラのそれぞれの楽器が、それぞれの音色で、平和への希求という曲を演奏するように、美しい響きでもって、読むものの心に迫るものである。読了して、坂本龍一氏は,人間の思想の気高さを示す、非戦(NO WAR)というシンフォニーの指揮をとったのだと思った。

 多彩な執筆者のアンソロジーである本書は、結果的に、まさに全世界から集められたアフガン戦争の情報の集積にもなっており、北部同盟のこれまでの行為、アフガンをめぐる大国支配の状況、アメリカ石油資本の権益問題についてかなり詳しく論述がされている。日本にいる我々は、マスコミの発達によって必要な情報はすべて得られていると錯覚しがちであるが、我々の目前に提示されている情報はかなり管理された情報であり、その中で、判断することを強いられていることを改めて自覚させられるものである。現実に、アメリカのアフガンの空爆に伴う被害状況については殆ど報道がされず、アフガン復興会議なるものが開催されている現状がある。このことは、真実を掴むには、真実を掴む努力が必要であることを物語っている。

 本書に、米国議会で、ただ一人、アメリカの報復戦争に反対した、カルフォルニア州選出の連邦下院議員、バーバラ・リーさんが、「私はいつも日本国憲法に心からの敬意をいだいてまいりました。地球全体の平和と公正のために、共に力を尽くしましょう」「I have always had the greatest respect for the Japanese Peace Constitution. I wish you success in our common goal as we work together for global peace and justice 」とのメッセージを寄せている。我々も旧来のいきさつや思想信条の違いを超えて、平和のための連帯の輪を広げることが今こそ要請されているのではないかと考えられる。

 本書は、真実を語っている故に、現在の既製のマスコミに大々的に掲載されない傾向がある。ぜひとも一読されることをお勧めしたい。
『非戦』
監修 坂本龍一+sustainability for peace
幻冬社
本体価格1500円
発行2002年1月



 筆者紹介
瀧本正史
京都市内の宝ヶ池近くに居を構える自由人。長年のサラリーマン生活から解き放たれるや、持ち前の遊び心が溢れ出て、写真、渓流釣り、そして読書と興味は広がる。本誌に写真を多く寄せている。つれづれなるままの読書の記録。
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