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本書は近代ドイツの研究者として著名な同志社大学・望田幸男教授の始めての「私小説的」著作であり、豊かな学識に支えられた、楽しいドイツの旅の案内書である。
内容は「南部ドイツ」「北部ドイツ」「ドナウ・ハプスブルグ」の3つの手作りの旅の経験と、それらの旅の「パン種」になった最初の「ドイツ平和の旅」の記録に分かれている。
旅行社のお仕着せの旅ではなく、自分の趣味や興味にあった内容豊かな旅をしてみたいというのは、誰もが感じる要求である。しかし、渡航先の国の旅行事情を熟知し、自分で旅を企画、募集し、通訳、解説までするとなると、そのノウハウは専門の旅行社に蓄積されており、勢い、旅行社の既製のパッケージの中から、妥協的なチョイスをして参加することにならざるをえないのが一般的である。著者は、専門旅行社のノウハウをうまく活用しながら、旅の内容の作成のイニシアチブを参加者の側に取り戻す試みを行い、創造的な旅の作成に見事に成功している。
本書は、清潔で美しい国であるドイツの歴史や文化を学びたいという人々ための、わかりやすい案内書になっている。筆者は、望田教授の『ネオナチのドイツを読む』(新日本出版社)を読み、啓発され、最初の「ドイツ平和の旅」の企画に携わり、添乗員として同行をさせてもらい、望田教授の穏やかな人格と奥深い見識に魅了された一人だが、本書のドイツと日本の面積の比較からみる人口密度違い、農業国に見える工業国のくだりや、歴史的に形成された小国分立のメリット、デメリットの論述等を読ませてもらい、自分自身の不勉強を改めて自覚するとともに、視点の穴を埋めてもらった感じをもった。
ドイツは、周知のように、戦後、ナチスドイツの戦争犯罪に対しての反省を徹底して行い、戦争犯罪の爪あとである強制収容所を保存し、若者の教育の場としている。同じ資本主義国でも「曖昧な日本」とは対照的な国である。本書は、そんなドイツを深く理解するのにも最適のものになっている。著者は、ナチス強制収容所の非人間的行為について、「正常な人間の日常とは全く無縁なものだとは断じきることはできない」「終わりなき問い」が必要であると述べている。この点は大変重要な指摘ではないか考えられる。
ドイツは「曖昧な日本」にもっと紹介されていい国であり、両国の市民同士の交流、とりわけ若い世代同士の交流がもっと広がることが必要であると考えられる。本書の発行と普及はその意味で積極的な役割を果たすものである。
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『ドイツの歴史と文化の旅 歴史家の手作りツアー体験記』
望田幸男 著
ミネルバ書房
本体価格2300円
2001年8月発行
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筆者紹介 |
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瀧本正史
京都市内の宝ヶ池近くに居を構える自由人。長年のサラリーマン生活から解き放たれるや、持ち前の遊び心が溢れ出て、写真、渓流釣り、そして読書と興味は広がる。本誌に写真を多く寄せている。つれづれなるままの読書の記録。
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