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この5月の総代会で退任した京都生協の前理事長、末川千穂子氏の著書である。理事長就任時の思いや、経緯、折々の随想と鼎談が載せられている。生協運動のあり方や、経営再建の方法をめぐって協同の中身が問われている現在、京都生協の現状を知りたい人や、疑問を持っている人々に、理解を深めるに適した内容になっている。
第一部「ある時代、協同と民主主義と私」は、家計簿活動の中から社会を把握しはじめた末川氏の真摯な思いが綴られている。最後のページで、「戦前と戦後は同じ土壌のもとにある。日本の社会は民主主義などにはなっていない、と思うようになったプロセスがありました。」というくだりは、末川氏が現在も引き続いてもっている問題意識ではないかと考えられる。
第二部の「虹のメッセージ」は、生協の機関紙の載せられたものであるが、一般組合員向けの広報誌だけでなく、生協職員向けの部内報に掲載された、初めて一般の目にふれるといってもよいものある。筆者も京都生協在職中には一度は読んだものであるのだが、改めてまとめて読ませてもらい、透明感のある文章の中に、組合員の視点に立った重要な指摘がちりばめられていることを再認識させてもらった。
全体として、末川氏の筆は、節度のある控えめな表現ではあるが、理事長就任後の努力にもかかわらず、「男女協同参画」の進捗が遅れていることへの残念さが読み取れる。京都生協は、全国の生協と同じく、男女役割分担の日本の古い状況から出発し、組合員、総代はほとんどが女性であるが、専従職員の上級役職者はほとんどが男性になっている。一部には「女性の上級役職への登用には一定の準備が必要」というあまり説得力がない考えもあり、この面では、ジェンダー問題が解決されているとは言い難い。筆者も、これまでに女性も男性と同じように、即登用しておれば、もっと早く、組合員の気持ちに沿った新しい道が開けたのではないかという思いがある。
第三部の末川氏、小林新理事長と二場邦彦教授との鼎談「協同の豊かなひろがりを求めて」の内容は、これまでの京都生協の成果点と共に、現状がかかえる問題点の指摘など、大変率直な内容になっている。鼎談の中で、学識理事である二場教授の指摘している、生協運営の硬直化や官僚化の原因のひとつである、常勤理事者の常勤の長期化の問題は、筆者の私見ではあるが、生協法そのものが、生協が40万世帯の組合員、定時職員を含めて2000人規模の職員集団になることを予測しておらず、その限界の現れであると考えられる。
今後の生協は、情報開示の徹底とあわせて、専従職員集団の中で立候補を含めた役職者の互選の規定を持つ必要があるのではないか。それは、総代会での総代の議決と整合性を持った、二院制のような、民主主義の一段高いシステムになると考えられる。消費生活協同組合は労働者協同組合ではないが、労働者協同組合の考え方を包含していくことが必要ではないかと考えられる。本書の発行を契機に、生協に新しい命を吹き込むための論議が、今後さらに深まることを期待したい。 |
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『虹のメッセージ』
末川千穂子著
かもがわ出版
本体価格1600円
2001年8月発行
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筆者紹介 |
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瀧本正史
京都市内の宝ヶ池近くに居を構える自由人。長年のサラリーマン生活から解き放たれるや、持ち前の遊び心が溢れ出て、写真、渓流釣り、そして読書と興味は広がる。本誌に写真を多く寄せている。つれづれなるままの読書の記録。
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