あんな本、こんな本
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『加害者天国ニッポン 交通死・重度後遺症被害者は告発する』
松本 誠著(交通死被害者の会協力弁護士)
 日本の交通事故の死傷者は2000年で106万人になり、その後も増加傾向にあるという。車を運転する者は、いつか加害者になる可能性を秘めている訳であり、また、歩行者として存在するときは、いつか被害者になる可能性があるということだ。車を所持し、運転している者は、任意保険、自賠責保険に加入し、まさかの場合に備えるというのが、世間一般の常識となっているようであるが、体制の利益のために、弱者が切り捨てられていっている現状を黙認、容認していないだろうか。

 著者は数々の事例から、事故後、多くの交通遺族は「加害者の刑の軽さ」と「捜査現場のやる気のなさ」という二つの疑問を抱くようになるという。実際、業務上過失致死罪の法定刑は「5年以下の懲役、禁固または50万円以下の罰金」と定められており、実際上の実刑の確定は3年を越えることはまずなく、2年以上の実刑率は全体の2%にすぎないという現状がある。これは、世界各国の基準と比較しても非常に軽い刑である。その後の補償交渉は加害者との直接交渉ではなく、保険会社の担当者とのマニュアルに基づいた金銭的な交渉となり、被害者遺族の哀しみや精神的な痛みについては、殆ど省みられない現状がある。筆者も昨年の10月に義妹を交通事故でなくし、交渉にあたってこのことを痛感した。

 著者はこの原因を、「事故入院障害で全治3週間以内は立件しない」という検察当局の事務手続きの簡素化要求から端を発する、交通事故の非犯罪化の方針に根本があると主張している。検察のこの方針を受けて、警察内部では、全治2週間以内は捜査も行わないとの方針をもって臨み、現場警察官はやる気をなくしている現状がある。

 一般裁判では、事件の情報は被害者自らが、主張、立証しなければならないが、交通事故だけは捜査を警察が独占しておこなっているため、被害者が調査や証拠保全しようとしても出来ない仕組みになっている。加害者の情報は被害者に殆ど知らされないのである。一方、保険会社側は、独自の調査会社を使い、警察や加害者から情報を得て、取捨選択をし、加害者に有利に、保険会社の支払いの少くなるよう交渉にあたるのである。保険会社の調査会社には、警察関係の天下りも多く、検察も警察も被害者から直接事情を聴取することを回避している。裁判もマニュアル化しており、被害者の人権が保障されているとはいいがたい。本書は、この現状の勇気ある告発の書である。
『加害者天国ニッポン 交通死・重度後遺症被害者は告発する』
松本 誠著(交通死被害者の会協力弁護士)
(株)GU企画出版部 
本体価格1600円



 筆者紹介
瀧本正史
京都市内の宝ヶ池近くに居を構える自由人。長年のサラリーマン生活から解き放たれるや、持ち前の遊び心が溢れ出て、写真、渓流釣り、そして読書と興味は広がる。本誌に写真を多く寄せている。つれづれなるままの読書の記録。
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