編集長の毒吐録
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☆2020/4/7更新☆

【読書雑記626】『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』 (大木毅、岩波新書、860円+税)。著者は言う。<第二次世界大戦の帰趨を決したのは独ソ戦であるが、その規模の巨大さと筆紙につくしがたい惨禍ゆえに、日本人にはなかなか実感しにくい。たとえば一九四二年のドイツ軍夏季攻勢は、日本地図にあてはめれば、日本海の沖合から関東平野に至る空間に相当する広大な地域で実行された。また、独ソ戦全体での死者は、民間人も含めて数千万におよぶ。しかも、この数字には、戦死者のみならず、飢餓や虐待、ジェノサイドによって死に至った者のそれも含まれているのだ。

そうした惨戦は、必ずしも狂気や不合理によって生じたものではない。人種差別、社会統合のためのフィクションであったはずのイデオロギーの暴走、占領地からの収奪に訴えてでも、より良い生活を維持したいという民衆の欲求……。さまざまな要因が複合し、史上空前の惨憺たる戦争を引き起こした。本書は、軍事的な展開の叙述に主眼を置きつつ、イデオロギー、経済、社会、ホロコーストとの関連からの説明にも多くのページを割いた>。

この世において「地獄」でない戦争は存在しないのかもしれない。独ソ戦は軍事的な合理性をすら失い、「世界観戦争」(絶滅戦争)にまで変質したという点でも、最高度に「地獄」的な戦争だった。好著。

著者は、戦争を@通常戦争A収奪戦争B世界観戦争(絶滅戦争)に分けて考えるが、独ソ戦はこの3つが並行して始まり、最終的には@とAがBに包含されたと捉える。「通常戦争」が「絶対戦争」にエスカレートしたと言う。ヒトラーの、「劣等人種」を絶滅し、「東方」にドイツ民族(アーリア人)の「生存圏」を獲得するという世界観と、スターリンの、「ファシスト」の侵略を撃退して、「共産主義」の優越を示したいというソ連側の世界観の激突だった。「世界観の激突」こそが独ソ戦の本質だった。

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