『社長室の冬』(堂場瞬一著・新潮社)を読んだ。
舞台は外資系メディアとの合併が進行形の新聞社。合併に強い意欲を見せてきた前社長が突然死したことで新社長に就任することになった九州に出向中の取締役、新社長の強い意志で先方との交渉に奔走する主人公、そして外資系メディアの日本本部長、帰国子女の謎めいた女性秘書を中心に物語は進む。
合併の進行を背景にライバル社へ転職する有能記者、自らの保身ばかりを口にし、新聞のあるべき姿を忘れた「御用組合」
の幹部、その光景を目にし、交渉先の外資系メディアの日本本部長から直々に“引き抜き”をかけられる主人公の心は揺らぐ。
両社の話し合いが進む中で、外資系メディアが提示した合併の要件は新聞の「活字版」の廃止だった。急速な「活字離れ」とインターネットなどの普及によって新聞の購読率は減少している。その状況下でのこの条件提示は外資系メディアにとって当然といえば当然だ。
しかし、<各戸配布>をモットーとする日本の新聞社はそれを受け入れがたい。外資系メディアからの要件に苦渋の決断を迫られる日本の新聞社。しかし、その条件提示に何よりも苦慮しているのはその要件を提示したはずの日本本部長だった。なぜなら、彼はその要件を提示した新聞社の元記者だったからだ。
意思統一ができない新聞社内部、早急の合併をアメリカ本社からせかされる外資系メディア、新聞社の株の40%を保有する創業者の息子、メディア規制の法制化を画策する大物政治家……。それぞれの思いが錯綜する中でページは進む。
たまにしか手にしない経済小説。突飛的な内容といえば……だが、単に「非現実的」という言葉では片づけられない内容だ。
事実は小説よりも奇なりという言葉があるが、それが起こるのが経済という世界なのか。この本のページを閉じた私は、ノートパソコンと睨みあいをするサラリーマンが着席した新幹線の車中にいた。
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