夜、保育所の慰労会が終わって自宅に帰ると、娘が飼っている兎が洗濯機の前にいました。元気がなくなったので避暑のためにゲージを移したとのこと。わたしが暑苦しい娘の部屋から移動させるように言っても、なかなか動かなかった娘です。わたしは兎が可哀想でしたが、見ない振りをしてきました。
不登校だった娘はこんなふうに動きが鈍いところがありますが、高校生活は予想以上にエンジョイしています。夏休み前の三者面談では担任の先生に、「こんな優秀な娘さんに育てられたお母さんには何か特別な教育方針がおありですか?」と言われてしまいました。娘は今回は優等生路線でいってるみたいです。前期は遅刻、欠席なしで駆け抜けました。夏休みの今は、三つの部活動とクラス文化祭の準備で登校しています。
学校の用事がない時はどこへも出かけずに、家のパソコンの前にいます。食事もパソコンの前です。なにやら動画を見てへらへら笑ってます。相変わらず、使った食器はあちこちに放置されたままです。家では勉強してるようには見えません。
「夏は家族で海や山に出かける」はすっかり過去のものになりました。この夏は、映画や買い物、外食に誘っても断られます。映画『ハリー ポッター』はいつも一緒に観に行ってたのに、「友だちと行くしー」と言われてしまいました。いつまでも親子で出かけるわけにはいかないのでしょう。今年も大文字の送り火をわたし一人で見上げることになりそうです。
我が家は、子どもから話しかけてきた時はおしゃべりしますが、こちらからは声かけしないのが流儀です。唯一わたしが声かけする「ご飯やでー」も、今では娘には届きません。娘は大きなヘッドホンをしています。「パソコンばっかしやと目が悪くなるよ。ヘッドホンは耳が悪くなるでー」と言っても返事は返ってきません。夏になって洗濯物もたくさん出す娘に「あのなあ、夏休みくらい自分で洗濯してくれへんかなあ」と言ってもダメです。急な雨が降ってきてもヘッドホンしてる娘は気が付かず、洗濯物を仕舞ってはくれません。これでは兎の声も届くはずがありません。兎とわたしにとって「にっくきパソコンとヘッドホン」です。あー、わたしは育て方を間違ったかなあ、とがっくりきます。
今年も家のクーラーはつけずに耐えている娘ですが、家にある2台の扇風機を独り占めしています。扇風機つけながらヘッドホンして、パソコンしています。それを見ると、お母さんはこのクソ暑い時に自転車で通勤してるのに・・・、とムッとしてしまいます。そして、親のことを思いやることもできない子になってしまったのかとがっくりきます。
でも、考えてみるとわたしもそんな娘でした。中学、高校時代、親が忙しく働いていた時に家でだらだらしてる子でした。でも、心の中は葛藤がいっぱいだったと思います。友だちのこと、勉強のこと、将来のこと、恋愛のこと、おしゃれのこと。親が口挟んでもうるさく感じるだけでした。高校生は親のことなんか気にしてらんない、それでいいのでしょう。わたしは、この夏は「気にかけてもらえない親」でいることが肝心なのだと開き直っています。
兎が避難したおかげで今度はわたしが寝場所に困っています。夜行性の兎は夜中に動きまわるので、うるさくて眠れません。 |
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筆者紹介 |
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渡辺 加代子
1955年、千葉県生まれ。ホームヘルパー。 25、23、19、13歳(2006年12月現在)の4人の子ども母親、上3人は男の子。2005年には長男に孫が誕生。
長男は19歳で結婚、15歳から海外生活が多く、アフリカでサッカーのプロ選手だったこともあり、現在、BMX自転車のプロ競技者。二男あふるさんは、丹波養護学校卒業後京都市内のパン屋で働く。絵描きとしてのデビューは2003年3月。三男は日本将棋連盟のプロ棋士養成所である奨励会の会員。5才のときから保育園に通えなくなり、小中高と不登校。フリースクールにたまに顔を出す。長女は小学校を4日間だけ体験。引きこもりにしては穏やかにすごす。2006年、中学一年生で突然学校に通い始めた。
「三人の子と年1回の海外旅行を楽しむことを目標にしているが、3回しか行けていない」と嘆きつつ、「 三男の暴れがすごかったので、いろんなことが転換してしまった。つらい体験だったけど、やり直しができてよかった。おかしな子ばかりで、まだ子育ての現役を痛感させられる」と屈託なく微笑む不思議な人。
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