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ベトナム戦争終結後26年が経過した。第二次大戦後最大の戦争だった。死者数はベトナム側300万人、アメリカ側5万8000人、化学兵器による後遺症で今も数百万人のベトナム人が苦しんでいる。大国アメリカが初めて敗北を味わい、小国ベトナムが国家の統一を成し遂げるという輝かしい歴史の一頁を切り開いた戦争であった。当時の国防長官マクナマラがかつての敵国ベトナムに呼びかけて対話が実現したのが1997年6月のことであった。
両国から、戦争当時に大きな責任を負っていた13名ずつが一同に集い、4日間にわたって白熱した論議を行なった。
そこで論議されたことは、「戦争は防げなかったのか?早期に解決はできなかったのか?」ということであった。
その様子が、1998年8月2日にNHKスペシャルで全国に放映された。映像では充分に伝えられなかったことも加味して、より詳しく著わしたのがこの本である。
マクナマラは20年前の総括の必要性を自ら発案しただけのことはある誠意の人である。では、両国の忌憚ない意見の交換で共通した結論にたどりつけたのか、再会談を約束するほどに論点を絞ることができたのか、あるいは話はまったくかみ合わなかったのだろうか。それは読者の解釈による。しかし、多くの読者は、どこか変だなという感想をもつのではないだろうか。例えば、アメリカ側は「空爆が続く中でも(ベトナムは)和平交渉に応ずるべきだった。年間100万人もの国民が命をおとしていることにベトナム幹部は心を痛めなかったのではないか」と発言する。大国アメリカに無意識のうちに根づいてしまった傲慢な思想、それにマクナマラらアメリカ側の人間だけが気づいていない。
この本は、戦った当事者同士の20数年後の会談記録という歴史的価値のほかに、誠実といわれる知識人あるいは政治家たちが、いかにして歴史を狂わせるか、また狂わせても、そのことになお気付かないのは何故なのか、真実を求めるとはどういうことなのかを考えさせてくれる。 |
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我々はなぜ戦争をしたのか−米国・ベトナム 敵との対話
東 大作著
岩波書店
2000年3月発行
本体1,800円
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筆者紹介 |
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若田 泰
医師。京都民医連中央病院で病理を担当。近畿高等看護専門学校校長も務める。その書評は、関心領域の広さと本を読まなくてもその本の内容がよく分かると評判を取る。医師、医療の社会的責任についての発言も活発。飲めば飲むほど飲めるという酒豪でもある。 |
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