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著者は、ベトナムの医師である。訳者は、ベトナム人の妻と暮らす皆川一夫氏である。小生もベトナムの南北分断の時期から、数回ベトナムを訪れた経験があるのと、著者のドー・ホン・ゴック氏が小生と同じく60才であることに魅かれて購入した。
作家アンドレ・モロワ、哲学者バートランド・ラッセル、作家林語堂らの、諧謔に富んだ警句や詩を引用しながら、著者の医者としての経験に裏打ちされた知識を駆使して、「老人」とは、「老いる」とは何かを、軽妙に語ってくれ、思わずうなずくところが多い。
特に興味深いのは、西洋と東洋(ベトナム)の老人のイメージの違いへの言及である。
いわく、「西洋では若さ、力、容色を尊ぶので、西洋で老人といえば、盛りのすぎた、その人の時代は終わったということを意味する。だから、老人はなんとか若いふりをしようとする。」「能率、スピード、活力、若々しさなどを尊重する文化においては、老人は自分を誤って評価し、見当ちがいを生じ、憂鬱となり、劣等感から自身喪失となり、あげくには、機能障害、精神病、幻覚自殺にまで至る。若者に支配されているアメリカの白人社会でよく生じている問題だ。アメリカでは老人が競って美容整形にはしったり、強壮剤をもとめたりしている。」
いわく、「われら、東洋の老人はちがう。われわれは、実際の年齢よりも年老いたふりをすることが多く、年齢を公にし、年齢を比較し、年齢を尋ね合い(婦人も含め)、さらに年齢を数える時は母親のお腹にいた年も合わせるので、西洋式よりも一歳多い。これがわれらの東洋式だ。」
「東洋の老人はあまりおしゃれをせず、格好もつけず、服装は簡単で、どんななりでもかまわない。男性であれば顎のひげを上下にさすり、威厳をもって立ち歩き、話し方はゆっくりで、人の多いところでは、賢者、長老に見えるよう、2、3度咳払いをして、若い連中から尊ばれるようにする。」
「両親が子を愛するのは、ちょうど水が下方に流れるように本能に従った自然のことだが、子が両親を愛するにはそれなりの文化が必要だ。東洋には『孝』の教えがある。」
著者は老人に対する位置づけは文化の違いであると主張する。
社会主義国ベトナムのインテリである医者の、これまでの診察や生活体験からの論述であるから、おおよその民衆の実態を反映していると考えるのが妥当であろう。
しかし、現代ベトナムにこれほどまでに、東洋が存在するのが意外であった。はたして、日本は東洋なのか西洋なのか、あらためて、自問自答を迫られる内容である。
日本は西洋の思考方法が大勢をしめていると判断できる側面はあるのだが、どっちつかずの蝙蝠のように、去就を決めかねている老人が多いのではないか。
老人達のストレスの増幅は、それが原因であるように推察される。「価値観の多様化」などと一言でかたづけることはせずに、福祉の観点からも、もう一度問い直しをしてみてはどうだろうか。 |
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ベトナム老人はなぜ元気なのか-東洋式老いの技法
ドー・ホン・ゴック著・皆川一夫訳
草思社
2001年3月発行
本体1,400円
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筆者紹介 |
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瀧本正史
京都市内の宝ヶ池近くに居を構える自由人。長年のサラリーマン生活から解き放たれるや、持ち前の遊び心が溢れ出て、写真、渓流釣り、そして読書と興味は広がる。本誌に写真を多く寄せている。つれづれなるままの読書の記録。
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