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前回に続いて、賢治について。
演劇好きとは言えないぼくですが、宮沢賢治の作品や生涯を題材にした舞台をいくつか観てきました。
もう一度観たい作品に、井上ひさし作『イーハトーボの劇列車』があります。ぼくは、1982年の再演(五月舎)で観ました。初演の賢治役=矢崎滋に替わって高橋長英が演じ、父・政次郎には佐藤慶。擬音語や言葉遊びに笑いながら、客席に「思いのこし切符」を撒くラストシーンまで。
もう一つが、河原町四条上ル西側にあった京都書院の四階ホールで行われた、黒色テント・68/71赤いキャバレーによる『宮沢賢治第貳旅行記』(加藤直・演出、1985年)です。
「注文の多い料理店」「オツベルと象」「やまなし」といった賢治作品が、最小限の演出のなかで歌い語られるキャバレー形式の音楽劇で、音楽は、林光と萩京子。その日の狭い会場の記憶をたどるとき、いつもブレヒト作『セチュアンの善人』の劇中歌「八匹めの象の歌」(B・ブレヒト作、長谷川四郎・林光訳、林光曲)が聞こえてくるのです。
だんなの持ってる七匹の象/いずれ劣らぬしつけの悪さ
しつけの良いのが八匹目の象で/現場監督に選ばれた
さっさ掘れ掘れ さっさ掘れ/ジンの旦那の大薮だ
日暮れまで畠にしろ/夜がそこまで来とるぞ
賢治とブレヒト。似てるか、似てないか。
ブレヒトの劇中歌(ソング)と言えば、黒色テントの佐藤信・林光コンビの日本版ソングには、素敵な作品がたくさんあります。有名なクルト・ヴァイル作曲の『三文オペラ』の「マック・ザ・ナイフ」だって、二人の手にかかれば阿部定事件の「包丁お定のモリタート」になってしまうんだから。
ぼくは一度、林さんのピアノの弾き語りコンサートを観たことがあります。場所は京都府立医大病院前にある文化芸術会館。そこで歌われる劇中歌のカッコよかったこと。
国旗国歌法など考えもつかなかった頃のことですが、「日の丸・君が代」についてのメッセージも印象的でした。今も大きなCDショップに行くと、「林光」を探すためにクラシックのコーナーに立ち寄るのです。
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