梅浩先生のボローニャだより
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第4節 ボローニャ国際見本市会場、フィエラ

〈国際見本市会場、フィエラとは?〉

ボローニャは、中部イタリアの古都であり、しかも列車で1時間近く先にあるフィレンチェとはまた一味違った落ちつきのある街である。ここを求めて観光に訪れる人たちが多いのも確かである。

同時にボローニャは常設の国際見本市会場フィエラ(見本市)を持ち、そのために1年中を通して商談や会場を訪れる市民が多いことでも知られている。今回はこの国際見本市会場、フィエラを見てみることにしたい。

ボローニャの歴史的市街地区チェントロはマッジョーレ広場を中心に歩いて半径20分の大きさであり、その北端にボローニャ駅がある。その駅から東北方向に歩いて20〜30分、バスで10分位のところにフィエラはある(注1)。

広大な敷地に常設館が並んでいる。当初日本の建築家丹下健三が設計したことで知られ、後に増設した建物もそのデザインは丹下のものと類似のものが使用されている。

会場は、高速道路のインターチェンジにも近く、ボローニャ飛行場からも遠くない。交通の要衝を活用した商品展示場であり、ボローニャの活力を引出す活動の中心内容をなしていることは間違いない。

一体この国際見本市会場、フィエラは何をめざしどういう現段階にあるのか、ボローニャ市資料を筆者が翻訳し、その一部を引用してみよう(注2)。

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ボローニャ国際見本市実施法人(ボローニャ・フィエラ)

下線は筆者.

ボローニャ・フィエラ(実施協会としての独立した法人組織)は、ボローニャ国際見本市の性格を変化させる過程であり、2002年度が終了して全会員によって成功・成就が確認された経験をもとに、2003年度並びに今後の活動計画作成に直面している。

2002年3月7日、法人の通常議会で決定された性格の変化を伴う事業は、エミリア・ロマーニャ州政府に承認(2002年決済983号)された。かかる承認のあと、通常議会は公的な法的行為のための実施法人への変化を最終的に2002年9月19日決定した。

同時に展示器具などの固定資産の提供をボローニャ大都市圏金融実施法人から受理した。

この結果協会は、全体として6,565万ユーロ(約90億円)の資産をもち、さらに12ヶ月以内に組織の今後の拡大を準備することになった。

法人の目的は以下の通りである。

(1)新民間会員の参入の権利を留保し、たえず公的な会員の参加を重要視する責任を負いながらも、法人が実質的に民営化の進路を取りはじめる。

(2)特徴的かつ原則的な活動を行い、投資と発展計画のバランスのとれた方法を模索し、割当増資により金融資産の注入を確かなものにし、法人の資産を新たに強化する。

(3)重要となる不安定要因を取り除き、納得できる援助の範囲で同意を与えながら、株式市場相場における今後の可能性を見ながら法人の規模を拡大させる。

(4)新産業及び金融会員による入場料利益を獲得する。その収入は戦略的・効果的・商業的な協力関係を重視しつつ、確固としたものをめざす。そして準備中の国際的活動の側面を強化し、関係者の同盟と協力の強化をめざす。

つまりここからはエミリア・ロマーニャ州によって設立されたボローニャ・フィエラが、民営化への方向を決定し、新産業や金融会員への活動の範囲をさらに広げ、国際的活動を強化しようとしていることがわかる。

当初ボローニャのインフォメイションで資料をいただきに行った時に、ボローニャ・フィエラの性格を聞くと、しきりに「プリバータ=民間」を強調していた。

私にはおそらくボローニャの公的機関が戦略上この機関を設立しただろうと予測していただけにやや不可解と思えた。しかし上記の資料を読む中で、民営化への過程でありこの意味するところが理解できたのである。

見本市会場は右上赤、チェントロは6角形、ボローニャ駅は中央青
見本市会場は右上赤、チェントロは6角形、ボローニャ駅は中央青
見本市会場は右上赤、
チェントロは6角形、
ボローニャ駅は中央青

ボローニャ・フィエラ会場地域、丹下健三設計並びにそれを模した設計
ボローニャ・フィエラ会場地域、
丹下健三設計並びにそれを模した設計

産業政策を主導するエミリア・ロマーニャ州政府、議会
産業政策を主導する
エミリア・ロマーニャ州政府、議会

州と連携するCNA州本部(職人・中小企業全国連盟)
州と連携するCNA州本部
(職人・中小企業全国連盟)

〈国際見本市会場、フィエラ2004年の年間カレンダー〉

それでは一体どの程度の見本市が開かれているのか、資料を整理したものが表1である。これをみると次のようにまとめることができよう。

(1)内容的には、圧倒的にモノづくりに関わる商品並びに技術展示である。

皮革製品並びに工業機械・技術、製造技術、パッケージ産業、建設産業・建設備品、金属加工・装備、自動車・バイクがある。これらはさらに、食糧や農業・造園の分野まで広がっている。そして、ここから発展し、経営管理やサービスにかかわる分野に裾野を広げている。製造業の経営・管理システム、輸送・サービス業、公共通信などである。

またこれに止まらず、美術、暮らし、本、教育、香水・美容である。つまり地元産業と密着しながら、見本市展示を通じて、ものづくりを全世界へ発信しようという心意気と見ることができよう。

(2)次に開催規模をみてみよう。

一部にファッション靴、皮革製品国際展示会のように年2回開かれているが、他は1回である。累計29種類、延べ日数124日、1年365日に対し、34.0%の開催日数となっている。2月から6月という1年の前半に展示が集中しているが、それでも年間を通して3日に1日は開催されている頻度になる。

私が、この見本市の存在を最初に知ったのは、留学前にインターネットで「ボローニャ」のキーワードで検索した時である。その時「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」の紹介並びに関連記事であった(注3)。

表1の一覧表でいえば、今年は4月14〜17日に予定の「ボローニャ子どものための本見本市」であり、その一環として開催されているものであろう。

その記事には、原画展は絵本絵画コンクールの入選作品によるものであり、ボローニャで毎年開催されていること、入選作品の巡回展が東京板橋区立美術館で同じく毎年開催されていること、併せて「イラストレーターが直接、作品を5点1組にしてボローニャに送れば、出版されているものも、まだのものも、分け隔てなく審査してもらえるため、新人作家の登竜門として世界的に有名」として紹介されていた。

この原画展がじつはこうした国際見本市会場、フィエラの壮大な国際的規模の会場で開催されていることはここに来て、ようやく分かった次第である。私もせめてこの「ボローニャ子どものための本見本市」は見逃さないようにしたい。

表1.ボローニャ国際見本市、フィエラ2004年の年間カレンダー
日程 日数 展示会名称
1月 11-13日 3 ファッション靴、皮革製品国際展示会
(新作発表ショー、履物、ハンドバック、アクセサリー)
22-26日 5 現代美術の国際的展示市場
2月 04-07日 4 都市で暮らすための技術展示会
14-22日 9 家具見本市=良い暮らしへの感動展示会
18-20日 3 製造業IT2004国際展示会と国際会議
(第5回製造業の経営・管理に関する統合システム)
18-20日 3 運行管理・工場・自動化システムに関する展示会と会議
19-22日 4 鋳造・型枠・付属品・グラフィック・技術の展示会
3月 17-21日 5 建築・仕上工事・構造物のリニューワルと技術に関する国際展示会
4月 02-05日 4 香水・美容国際展示会
14-17日 4 ボローニャ子どもの本見本市
15-18日 4 教育と教授法のための思想と教材
27-29日 3 皮革製品の様式
27-30日 4 靴ストッキング・皮革製品の工業機械並びに技術に関する国際展示会
5月 12-15日 4 健康管理に関する国際展示会
12-15日 4 薄板・パイプ・形鋼・金属構築物組立て、溶接熱加工・表面処理と仕上げ用加工用機械・装備
26-29日 4 各種支援業務・輸送のシステムとサービスの統合手段に関する展示会
26-29日 4 工業並びに機械的操作に関する国際展示会
6月 08-11日 4 第1回製薬産業と周辺産業の技術革新展示会
08-11日 4 安全な食・品質保持期間拡張技術の展示会と会議
08-11日 4 パッケージ用材料・生産・解決策の展示会
21-23日 3 ファッション靴、皮革製品国際展示会(この年2回目)
(新作発表ショー、履物、ハンドバック、アクセサリー)
9月 09-12日 4 第16回自然食と健康環境の国際展示会
15-17日 3 公共通信と市民サービスの展示会
28-10/3日 6 建築用陶器とバスルームに関する国際展示会
10月 13-17日 5 機械化と建設に関する国際展示会
26-28日 3 皮革製品の様式(2回目)
26-29日 4 皮革産業のための機械・技術国際展示会
11月 13-16日 4 農業・造園のための機械工業国際展示会
12月 04-12日 9 自動車・バイクの国際展示会

(出典)"2004 Calendario delle Fiere"Bologna Fiere より作成。
(注)計29種類、延べ日数124日、1年365日に対し34.0%開催。

〈家具見本市とモーターショウ〉最後に、私が見学した家具見本市、及び知人の見学したモーターショウを紹介しておきたい。

□ 家具見本市

家具見本市は2月14日から22日まで開かれていた。時間は(月)〜(金)が17時〜23時、(土)(日)は10時〜21時である。平日の終了時間の遅さに目をみはる。イタリアでの生活時間からするとこうなるであろう。

いただいたカタログの一部を紹介すると次の通りである(注4)。まず、「夢はフィエラで実現する」と家庭生活の豊かさへと案内している。そして、「家具見本市で、恒例の商談やデートを時間通りに繰返そう」と呼びかけている。

もちろん常設展示会場の全てを利用するのか、その何分の一を利用するのかは、展示内容や規模によって異なる。この日はおおむね3分の1程度を使用しているように見うけられた。それでも広い。私もこの種の展示会には、何度となく出かけたことがあるのでその広さ感覚は間違いなかろう。

入ってすぐ注目を浴びたのは、式服のファッションショーであった。若者を集め、その家族を集める作戦なのか、大勢の参加者となっていた。ファッションショーが比較的身近なところで開催されているのも驚きであった。

このあと家具の展示コーナーを回った。カタログの項目でみると、現代家具、伝統的家具、家具の付属品、芸術的手工芸品、入浴家具と内部仕上げ、外観と庭園のための家具、と書かれていた。

ここで現代家具のコンセプトをみると、「その分野で大変高名なデザイナーが毎年現代家具の形状に示唆を与えている。革新的な材料を使用して実現した家具・付属品であり、かつ厳密で本質的な輪郭線を用いて仕上げている。

その示唆は、デザイン史に残された足跡をおろそかにしないで、生活する慣習が徐々に変化していくという刷新の表現術に従い、機能性と人間工学という基準にもとづいている」とある。

確かにこうは書かれていた。しかしこの家具展を見ながら感じたことがいくつかある。

1つには、イタリア社会がそうさせるのか、伝統的家具の持つウエイトの大きさである。周りの建物、住まいに年季をかけたものが多いせいだと思われるが、いまなおクラシック家具が重要な位置を占めていると感じさせた。

2つ目には、それとの表裏をなすものと思われるが、デザインにやや見劣りがあるのではないかと見受けられた。よく一般にミラノファッションなどといわれるが、こと家具、しかも現代家具に関しては、やや見劣りが感じられた。

以前にデンマークやスウェーデンで洗練された家具を直接見たことがあるだけに、デザインや使い勝手にやや難色の感を持った。

使い勝手で言えば度々経験したことに、次のことがある。イタリア人は背の高い人もいるが、それ程高くない人も多くいる。にもかかわらず、戸棚などが結構高いのである。どうやって収納するのかと思われるのである。しょっちゅう利用するのだから、もっと工夫すればよいのに感じたのは、私だけでは無さそうである。

もう1つ家具展を見学して、救われた思いがしたことがある。それは以前の滞在は別にして、今回はボローニャ滞在以来、一般家庭の置かれた様子が必ずしもわからないままでいた。現在の下宿だけでは限られたものであり、いまのイタリア社会の生活の雰囲気がもう少しわからないかと感じていた。

それだけに展示品を購入する資力のある方は、まだまだ限られてはいるとしても、展示されている品々が各家庭に持ち込まれていくと思えば、ある程度の推測がつくというものである。

インテリア製品が並ぶ家具展地場
インテリア製品が並ぶ家具展地場

漢字もファッションか?字が逆さになっていてもわからない
漢字もファッションか?
字が逆さになっていてもわからない

展示会場のファッションショー
展示会場のファッションショー

□ モーターショウ=自動車・バイクの国際展示会

モーターショウは、今年のカレンダーにも12月に入っている。

ここで紹介するのは昨年12月6〜14日に開催されたものである。ここの見学をしたバイク好きの知人は言う。

日本の展示会もいくつか見ましたが、いやあ規模の大きさには驚きましたね。大体展示場と仮設サーキット場までが一緒になったところなんて見たことが無かったですよ。

車の特徴の違いですか?まず日本車とヨーロッパ車では、車に関する考え方というか、コンセプトが違うということがよくわかりましたね。日本車は、「環境にやさしいとか、乗りやすいとか、便利さとか」そんなところを追及している感じでしたね。またボローニャではなく日本の展示場でしたが、身障者にも使いやすいなどのコンセプトの車がありましたね。これに対してヨーロッパ車は、車そのもののスピード感、デザインがどうだと言った具合に、強調するところがまるっきり違っていましたね。ヨーロッパの考えも良いですが、日本が一歩先を行っているというところでしたね。

だからトヨタが出していたコンセプトカーは、現実には一般道路ではまだ走っていない車だが、今後のあるべき方向を提案しているというものでしたね。つまり一見すると車からバイクへ接近した感じのものですが、そこには電気を使うエコカーの考え方や、1人で乗るのに4人乗りの車は必要ないということで1人乗りの気軽さを提案しているとか、そんなところが幾つかありましたね。

同時に見学しながら考えたのですが、日本では部品メーカーは企業規模が大きくなくほとんどが大手の下請けというところです。ところがヨーロッパでは、例えば車はバネが大事ですよね。そのバネ、サスペンションと言いますが、その部品メーカーが企業規模は大きくなくてもそれだけで一流企業として独立してやっている。そんな会社が無数にあるそうですよ。違いとしては大変興味深いところでしたね。

仮設サーキット場も設置された広大な見本市会場
仮設サーキット場も設置された
広大な見本市会場

昨年末のモーターショウ、イタリア・アルファロメオ
昨年末のモーターショウ、
イタリア・アルファロメオ

トヨタのコンセプトカー
トヨタのコンセプトカー

二輪車では世界一のホンダ
二輪車では世界一のホンダ


(注1)BolognaFiereの連絡先は次の通り。BOLOGNAFIERE SpA, Viale della Fiera 20, 1-40127 Bologna, Tel.+39/051/282111, Fax.+39/051/6374004, www.bolognafiere.it.dir.gen@bolognafiere.it

(注2)Comune di Bologna "Relazione previsionale e programmatica 2003-2005"(2002),p.139.

(注3)この時のホームページアドレスは次の通り。http://www.city.itabashi.tokyo.jp/art/bologna/

(注4)家具見本市に関してはすべて以下による。BolognaFiere発行カタログ "I SOGNI SI AVVERANO IN FIERA DAL 14 AL 22 FEBBRAIO 2004" FIERARREDO。


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