梅浩先生のボローニャだより
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第3節 ボローニャの人材育成に異変?

前2回の「ボローニャだより」で、保育事情をみてきた。このなかで、人口構造に少なからず異変が起きていることに気がついた。

それは長期的にみれば大した変化ではないのか、それともこの社会に大きな激変をもたらすことになるのか、その手がかりを得るために教育事情を通してもう少しみてみることにした(注1)

〈義務教育と中等教育〉

ボローニャ市における小学校入学前の3年間の幼稚園は事実上皆教育となっているが、イタリアの義務教育としては、小学校5年間(6-10歳)と中学校3年間(前期中等教育、11-13歳)の8年間である。

2001―2002教育年度(以下、教育は略)では、小学校の生徒数は11,983人であり、わずかに上昇(対前年度、+100人)し、1995―96年度から微増の傾向となっている。この背景には少なからず移民の子弟の増大があることを保育事情でみてきた。入学者の86%は公立学校に通い、14%は私立学校に通っている。

中学校への入学は長い低下傾向のあと、小学校への入学の変化の数年後という遅れを伴いながら、1999―2000年度から微増している。中学校のこの部分の実数は、2001―2002年度で7,022人の生徒数であり、事実249人の増加となっている。

2001―2002年度の後期中等教育(高等学校など)への入学者は、長期間の激しい減少のあと、わずかの増大を示しながら、16,018人となっている。この場合、学生の91%は公立学校であり、特に2,100人以上はボローニャ市の2つの学校(A・ヴァレリアーニ、E・シラニ)に通っている。残りはすべて国立学校である。

表−1 小学生(6-10歳)と中学生(11-13歳)の人口推移


グラフをクリックすると、拡大してご覧いただけます。

(※)グラフ上は小学生,下は中学生。

左端1990年,右端2002年。
2002年を除き12月末、2002年は6月末現在。


表−2 後期中等教育の入学者数推移


グラフをクリックすると、拡大してご覧いただけます。

(※)グラフ左端1990-91年度、右端2001-02年度。


表−3 小学校、中学校、及び後期中等教育の生徒数

公立学校には91%が入学し、その半数45%は4種類の高等学校を選択している。理系高等学校は最大の24%、文系高等学校は10%である。一方、商工や農業の技術学校は計28%、専門職業学校は16%である。

つまり公立学校入学者の半数が高等学校であり、半数が技術学校と職業学校となっている。ただし年限はいずれも5年であり、卒業後の大学進学は可能となっている。残り9%は私立学校である。

表−4 後期中等教育の学校種別生徒数(2000-2001、2001-2002年度)

ガルバーニ文系高等学校
ガルバーニ文系高等学校

マルコ・ミンジェティ文系高等学校
マルコ・ミンジェティ文系高等学校

ルブビアーニ国立職業学校
ルブビアーニ国立職業学校

〈後期中等教育の学校種別入学生徒数の推移〉

この変化をもう少し長い期間で見てみるとどうなるのであろうか(表−5図−1参照)。

顕著なのは全体としては入学生徒数が激減していることである。わずか10年余りで24,066人から16,018人へと7割をきり、67%への減少である。

この中でも文系高等学校は117%、教育高等学校は210%を示しているが、その他のすべての分野で大幅な減少となっている。前段で見た限りでは、その落ち込みがやや止まったようにみえる。しかし落ち込んだ数値はすでに極めて大きいのである。

特に、このボローニャにおいて、中小企業が集積し産業の担い手として大きく貢献してきたA・ヴァレリアーニなどの商工技術学校は、今でもそのウエイトは27%ではあるが、10年前に比べ8,931人から4,359人へと49%までの半減である。E・シラニなどの職業学校も同様に4,585人から2,545人へと56%に減少している。

最近ボローニャの産業を担う幾つかの関係者の話をうかがう機会があった。そこでの基本的なトーンは、経済が堅調であるために人材不足が生じているとの前提で、幾つかの対策の話を聞いた。人材不足、人材育成、外国人労働者、外国進出との関連である。

しかしことがらはそれだけでなく、ある種、成熟社会に伴う社会のあり方そのものから生じているように思える。出生数の減少、手仕事や技術労働を忌避する問題をどう乗り越えているかにかかっている。

その意味では、高度成熟社会におけるより本質的な解決策が求められているように思えてならない。第3のイタリア(サードイタリア)として注目を浴びてきたこの地域において、人材育成の面から少なからず異変が起きていることは間違いなさそうである。

色彩豊かな食料品
色彩豊かな食料品

門を通して見える景色
門を通して見える景色


(注1)Comune di BolognaモRelazione previsionale e programmatica 2003-2005モ(2003), p.14,p.15、Comune di Bologna メAnnuario Statistico 2001モ(2002),p.194参照。

(注2)馬場康雄・奥島孝康編「イタリアの社会」(1999)早稲田大学出版部、p.53〜54。


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