梅浩先生のボローニャだより
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第2節 ボローニャの保育事情、その2

〈インタビューからうかがえる保育事情〉

先回予告したあるお母さんのお話をお聞きすることにしたい。当地在住の日本女性で、イタリア人と結婚されている方である。子どもさんは2002年11月生れであり、2003年9月の新学期から10ヶ月・0歳児で、保育園に預けておられる。

【質問の趣旨】

日本では保育園に子どもを預ける場合、年度当初でないとなかなか難しく、年度当初でも0歳児、1歳児では定員が少なく、とても困った記憶がある。時には、大変なお金を出して個人的に預けていた方もいる。

ボローニャの保育事情をお聞きし、優れていると思われる部分や、ここはこうあって欲しいところなどを、日本の皆さんにお伝えできれば参考になるものと思われる。

【Q 1 :保育園に預ける=イタリアでは一般的で、ご夫婦、おじいちゃん・おばあちゃんなどの間では、特に問題はなかったですか?】

北イタリアに関しては、ほとんどの母親が働いているので保育園に預けるのは一般的です。しかし、1歳半か2歳になる位まではベビーシッターを雇ったりして家でみようという考えも、よく聞きます。それより小さいうちは、まだちょっと無理かな、という感じです。

保育園に預ける長所としては、他の子どもたちと一緒にいる機会があった方が良いし、短所としては、すぐに病気を拾ってくるのでかわいそう、などがあり、やや個々の考え方にもよります。

ただ、小さい時から預けたいと思っても、保育園で受け入れてくれる人数が少ないので、順番待ちをしているうちに大きくなってしまった、という不可抗力による場合もあります。ボローニャ市全体で、毎年、700人ぐらいの子どもが順番待ち(待機児童)がいると聞いています(注1)

個人的な面から言うと、預けるにあたって、夫婦間では特に問題はありませんでした。夫の両親は、「自分たちが面倒を見たい」とは言っていました。しかし、高齢であることや、私にとっては自分の親ではないので、あまり気楽でない面もあって、保育園という選択肢で納得してもらいました。

この問題は、おじいちゃん、おばあちゃん、夫婦の年齢にかかわらず、それぞれの家族の考え方にもよるので、何が一般的傾向かというのはちょっとわかりにくいと思います。ただ、家の舅姑(しゅうと・しゅうとめ)は非常に保守的な家族観を持っているとは思いますが・・・。

【Q 2 : 入園相談は?=子どもさんが生まれるとわかってから、保育園にあずける相談や、その手続きはどのように進んで行きましたか?】

地区の教育事務所から、ある時期(だいたい春)、その年に生まれた赤ちゃん全員を対象に、保育園への入園に関する書類が送られてきて、関心のある人はいついつまでに書類を書いて提出するように、といってきます。

希望する保育園(たしか第5希望まで)を、その書類から選び、両親の所得、労働条件に関する必要書類を添付して、その役所に提出します。役所から、どの保育園に入園を決定したか、または順番待ちリストの何番に入っているか、などが文書で連絡があります。

【Q 3 : 入園の可能性は?】

(1) お母さんの職場復帰との関係からいって、最初からまったく希望通りの入園が約束されていて心配はなかったのですか?

職場復帰は9月で、保育園の決定は7月上旬だったので、入れなければベビーシッターを捜すとか、私立の保育園をあたるとか、他の選択肢を探す余裕はあるな、という計算でした。幸いに、第一希望ですぐに入れることになったので、その心配も無用でしたが。

(2)日本では、公立・私立保育園ともに、役所が管轄していて公立に入れなかったら、私立にいくという事はありえないですが、こちらではまったく管轄も異なり、入園のことや保育料などもまったく別だと考えてよいとでしょうか?だから公立がダメだったら、私立を考えることがありうるわけですね。保育料も少し高くなるとか?

そういうことです。私立の保育料は 公立の保育園の最高額と同じぐらいだと聞いたことがあります。それも園によって違うと思いますので、定かなことはわかりません。

18年前にも見た保育園、そろそろ立て直し時期に
18年前にも見た保育園、そろそろ立て直し時期に

前庭におかれた彫像・女性像
前庭におかれた彫像・女性像

裏庭のかわいい倉庫や遊具
裏庭のかわいい倉庫や遊具

【Q 4 : 保育園の規模などは?】

(1) 0−2歳の保育園と、3−5歳の幼稚園の様子をお聞かせください。

預けたところは、ベッティというモンタニョラ公園の中にある保育園です。徒歩10分位で行けます。ここは、同じ建物の中に保育園、幼稚園両方があります。

保育園は2階、幼稚園は1階で、簡単に外の遊び場に出られるようになっています。2階には小さな中庭のようなものがあって、歩ける年齢になった保育園の中くらい組、大きい組の子達が遊んでいます。

保育園は、年齢別(月齢別)に、大きい組、中くらい組、小さい組の3つにわかれています。

例えば、うちの子どものクラス(小さい組)は、入園当時一番小さかった子が6か月、一番大きかった子が1歳ちょうどでした。子どもは全部で16人、先生は、常勤が4人、非常勤というかお手伝いの人が2人つきます。

この数は、コムーネ(市)や州によって違います。エミリア・ロマーニャ州はイタリア中で一番充実しているそうです。先生ですが、入った時から3年間ずっと同じ先生です。つまり、0歳から2歳まで先生は変わりません。

幼稚園は、クラスが2種類あります。

一つは、3歳から5歳までの子が一緒になっているクラスであり、もう一つは、年齢別に分かれているクラスです。

これは、他のお母さんから聞いた話ですが、入園の際に、どちらのクラスを希望するかを書かなければならないそうです。1クラスの子どもが25人、先生は1人。

これも、他のお母さんから聞いた話ですが、この園の教育方針は、とにかく自由。その中で、それぞれの個性を見つけ、創造力を伸ばす,というのが基本のようです。

規律とか訓練とかいう言葉からは程遠い、と言っていました。また、保育園の家具や飾りなども、一部は子どもたち、またはその両親が休日返上で一緒に作ったりしているようです。

(2) 保育園のクラスの構成はいかがですか?

0歳児、1歳児、2歳児が各1クラスで、人数は0歳児16人、 だいたい15,6人が定員だと思います。これに先生は、常勤が4人、非常勤2人です。3歳児、4歳児、5歳児は、正確な事はわかりませんが、さきにお答えしたように、子ども25人に先生は1人です。

(3) 保育時間はどうですか?

保育時間は午前8時00分〜午後3時30分が原則であり、1歳の誕生日をすぎてから、保護者の事情により、朝、および夕方の時間を延ばせます。この場合、親の労働時間を証明する書類を出すことになります。

私の場合は、朝7時半から8時の間に入園し、夕方は4時半から5時、または 5時から5時半の間に引き取りに行きます。その費用は余分には必要ありません。

【Q 5 :保育料や保育内容は?】

(1)保育料は保護者の所得や子どもの年齢により違いがありますか。金額はどの程度ですか?

保護者の所得により、まったく払わない人から、聞くところでは月額500ユーロぐらい(約6万5千円)まで、段階があります。所得と比較しての負担感は、私としては妥当という感じでしょうか。

料金だけ見れば、決して安くはありませんが、おやつ2回、昼食、オムツ代、それから保育時間、と照らし合わせてみれば、これ位かなという印象です。

(2)保育施設の充実度はどうですか?

建物が古いので、そろそろ建て直しの時期に来ていると思います。実際そういうプロジェクトもあるそうですが、資金難のためなかなか現実にならないと聞いています。

スペースは、広くもなく狭くもなく、目の行き届きやすい広さです。靴箱、ご飯やおやつを食べるところ、遊ぶところが2部屋、昼寝用のベビーベッド(それぞれ自分のベッドがある)が置いてある昼寝部屋、という構成です。

おもちゃもいろいろあるし、毎日お掃除のおばさんがきれいに掃除をしてくれているようで、清潔です。

(3)保育内容はどうですか。預けて良かったと思う点、どうかなあと思うことなどはありますか?

良かったと思うことは、他の子どもたちと一緒に過ごせること、親や親戚以外の大人と接することができること、いろいろな遊びにふれられることですね。

どうかなあと思うことは、子どもが小さく入ったばかりなので、しょっちゅう体調を崩し、結局どの子も、3日通って3日休み、と言う状態に陥ることです。もう少し、かぜをひく回数が少なくならないものか、という印象を受けます。みんな、はなたれ小僧、おせきゴホゴホ、という感じで通っています。

その他のことでは、満足しています。

【Q 6 :保護者同士のつながりはどうですか?】

それぞれが、思い思いの時間につれてきて、引き取りに来るだけなので、今のところ会えばお話するけれど、と言う程度の付き合いです。ただ、初めの1か月は「仲間入り」と言って、子どもと親が一緒に登園し、先生たちと一緒に遊び、少しずつ新しい環境に慣らす期間なので、他のご両親とも外で待っている間によくお話をしました。 皆さんいい方で、特に問題ないです。さらにベビーシッターが必要だとか、いろいろな情報源としても、とても有効なネットワークです。イタリア人のお母さんはとても心配性の方が多いので、他のお母さんとお話できると安心できたりする面もあるようです。

【Q 7 :保護者の出身国が様々という話を聞くこともあります。今の保育園ではこのことで何か感じることはありますか?】

私は直接お話する機会がまだないのですが、3人くらい外国人同士の子どもが、私どものクラスにもいるようです。イタリア語ができないので、「先生方は両親との意思疎通が大変なようよ」という話を人から聞きました。

【Q 8 :その他、感じることはありますか?】

先生方は経験豊富で、本当に子どもが好きでやっている様子がよくわかるし、一日の報告もきちんとしてくださるし、私は預けてよかったと思っています。

ただ、やはり小さいうちは、なるべく時間のある時は午前中のみとか、預ける時間を短くしてあげたいな、と言う気持ちはあります。とても疲れるようですし、家に帰ってからも私にくっついてなかなか離れたがらないところをみると、やっぱり外で一生懸命なのでしょうね。保育園ではあまりぐずったりしないようですが。

なお、なかなか園の生活に適応できない子は、しばらく午前中のみ通園とか、その子どもに合わせたとても柔軟な態勢で応じてくれます。時間も、親がその日によって引き取りに来る時間を言えるので、とても柔軟でいいと思います。

どうしても、毎日午後4時までじゃなきゃだめ、と決まっていたりすると、結構負担になるかもしれません。実際、私も時間のある時は早く迎えにいっています。

(インタビューに応じていただいたお母さんにお礼を申し上げます。有難うございました)

裏庭のかわいい倉庫や遊具
公園におかれたブランコ・滑り台

裏庭のかわいい倉庫や遊具
公園におかれたシーソー

裏庭のかわいい倉庫や遊具
前庭におかれた彫像・ライオン像

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〈保育事情・雑感〉

年齢の低い0−2歳で公的保育サービスを享受している割合は3分の1強であり、その他はもっぱら親・家族による子育てである。この相違は、インタビューのお母さんによると「それぞれの家族の考え方」にも大きく関わっている部分があり、同時に未措置児童の問題もあると思われる。

しかし、3−5歳児は皆教育の実現、すなわち集団的な学校教育が実現しているものといえる。一方では、保育問題にも、移民問題が複雑に絡まりながら事態は進行しているようである。

保育園では3年間同じ先生が担当し、子ども15,6人に、常勤の先生4人、非常勤2人が当っている。幼稚園では子ども25人に先生は1人。ただし、年齢別と異年齢混合クラスが並存し、親の希望を取り入れるというのは日本ではとてもありえない話だなと思った。

建物は筆者が18年前に始めてボローニャを訪問した折には、随分斬新で且つしっかりとしたものだとの印象を覚えている。それから随分経過したのだから、外からは見た目にも古くなってきている。

ボローニャ式にいえば、できれば外観は一部補修しつつ内部を刷新していけば全く問題はない。しかしこの間私は、4年前からの市の右派政権が都市政策上の大きな転換、ないしは政策放棄を行ってきたことを見てきている。保育政策上の現段階についても、もう少し時間をかけて見ていく必要があろう。


(注1)「第18回 ボローニャの保育事情、その1」の統計数字と比較するとかなり大きい数字である。少なくとも、ある程度の人数がいると考えてよさそうである。


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