梅浩先生のボローニャだより
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第1節 ボローニャの保育事情、その1

 このホームページが「福祉にまつわる“怒り”、“ほのぼの”、“なるほど”がいっぱいつまった」福祉広場であるからにはと、今回はボローニャの保育事情の一端に触れてみることにした。限られた制約の中で書いているので、どこまで期待に応えられるかは分からないが、大きなところでの相違がわかっていただければと思う。統計からみた保育事情、インタビューからうかがえる保育事情の構成で、本日はその中途までになるがご了承いただきたい。

広い公園の中の保育施設
広い公園の中の保育施設

ASILO NIDO(保育園)入口
ASILO NIDO(保育園)入口

保育園壁面の彫像
保育園壁面の彫像

〈統計からみた保育事情〉

手もとに、ボローニャ市役所「予測とプランに関する報告書 2003-2004」がある。ここには過去5年、ないしは10年程の経過を含めて網羅的に政策の到達状況が記されている。これと同市役所「統計年鑑2001」を使って、小学校に入る前段階の保育事情の一部を紹介してみよう(注1)

イタリアでは、0−2歳が保育園、3−5歳は幼稚園と呼ばれている。この2つの違いは、子どもの年齢が違い、従ってまた子どもや先生の人数の違い、教育内容の違いとなって現れている。日本では両者が並存している部分があるので、やや混乱するところがあるが、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校と年齢別に呼称や教育内容が変わっていくものと思えばよさそうである。

もう一つこの問題を考える上で重要なことは、子どもの人数の推移である。過去10年間のボローニャ市内の出生数は次の通りである。

表−1 出生年別子どもの人数

1991 2,329 (1.00)
1992 2,347 (1.01)
1993 2275 (0.98)
1994 2258 (0.97)
1995 2,316 (0.99)
1996 2,503 (1.07)
1997 2,556 (1.10)
1998 2,470 (1.06)
1999 2,658 (1.14)
2000 2,783 (1.19)
2001 2,712 (1.16)

[左:西暦年、右:人数、( )伸率]

 1994年を底として急激な増加の傾向にあることがわかる。数字だけをみれば、少子高齢化社会が問題視されているなかでは、歓迎すべきものと考えられる。

しかし、ことはそう単純ではなさそうである。通っていた語学学校には25人ほどの女性教師がいるが、出産・育児との関係があると思われるが、非婚を含め誰一人として子どもがいないというのが実態のようである。

10月28日の夕刻のTVではイタリア全体の統計数字に関するニュースがあった。移民の増加数であり、1位モロッコ、2位アルバニア、3位ルーマニアが出ていた。ボローニャの出生数の増加も移民によるその子どもたちによるものの寄与が大きい、とは下宿の主人の話である。その他の出身国としては、アルジェリア・チュニジアの北アフリカ、インド・パキスタン・スリランカ・フィリピンなどのアジアがあげられる。

下宿の主人はさらに付け加えて、ある保育園での友人の子どものクラスは、15人のうち9人がイタリア人であり、6人が非イタリア出身だとのことである。さらに出産はしたくないが、子どもは欲しいとのことから、イタリア人が非イタリア人の子どもを養子縁組にするという事例も増えているそうである。

この問題からは、さらに数ヶ国語にわたる言語の違いによる先生と保護者との意思疎通が図れないことや、子供同士の相互理解などで、時には深刻な問題もおきてきているとのことである。

ところで子ども人口の転換点となる1994年は、新選挙制度のもとで選挙が行われ、ベルルスコーニ政権が登場し、6ヵ月後に退陣となる。右派政権の成立の時期を福田静夫氏は「危機のイタリア」として叙述している。そして1996年には左翼中道連合「オリーブの木」が成立する(注2)。こうした時期と重なりながら、外国人労働者は増大し、イタリア社会が新たな展開をする(注3)

移民問題は市民の足元の問題であり、移民との関連による社会の安全問題として、ボローニャ市政をめぐっても重大な政策的争点となっている。いま、ヨーロッパにおける移民問題が重大視されているその一端に触れる思いがした。

〈0−2歳の保育園〉

0−2歳の子どもの人数が明らかに増加していることは、上で述べたとおりである。ボローニャ市では、「就学前教育及び学校教育へのサービスに対する需要の側面からみた明らかな帰結として、最近数年間に生れた子どもの数が著しく増加している」として、重大な課題となっていることを認めている(注4)

子どもの数のうち4分の1強が保育園に入所していることになり、その他の保育補助を受けているものも保育園定員の4分の1近くになる。その他の保育補助とは、家庭への補完的な手当の受給者、子どもと親のセンターへの入所、認可企業保育等がある。こうして公的保育サービスを享受している割合は、全体の3分の1強で、2003-2004年度では36.7%となっている。

表−2 ボローニャ市の公的保育サービス

教育年度 2001-2002 2002-2003 2003-2004
0−2歳の子どもの人数 8153 8288
(+135)
8388
(+100)
保育所定員 2236 2311
(+75)
2313
(+2)
その他の保育補助
(手当受給、子どもと親のセンターなど)
545 700
(+155)
765
(+65)
総 合 計 2781 3011
(+230)
3078
(+67)
割 合 34.1% 36.3% 36.7%

[教育年度:9月スタート、( )内前年比]

〈3−5歳の幼稚園〉

3−5歳の子どもも増加傾向にあることは同様である。これらの子どもがどこで教育を受けているのかであるが、おおむね7割が市立、2割が私立、1割が国立となっている。このほか一部分は重複しながらも、まったく自主的な教育活動も行われている。こうして3歳からの皆教育が実現しているといえる。人数/子ども数、つまり1クラスあたりの子ども人数であるが、ほぼ24人前後となっている。日本の場合と比較するとどうであろう。

表−3 ボローニャ市の幼稚園教育

教育年度 2001-2002 2002-2003 2003-2004 同左割合
子どもの人数 7529 7491
(−38)
7702(+208) 100%
市立人数/クラス 5168/212 5198(+30)/212 5269
( +71)/212
68.4%
国立 同上 737/ 34 748(+11)/ 37 841 ( −7) / 38 10.9%
私立 同上 1427/ 60 1496(+79)/ 64 1597(+101)/ 64 20.7%
合計 同上 7332/306 7442(+110)/313 7707(+265)/314 100.1%
自主教育同上 303/ 15 229(− 74)/ 10 229 ( 0 ) / 10 3.0%
合計 同上 7635/321
=23.8人/クラス
7671(+ 36)/323
=23.7人/クラス
7936(+265)/324
=24.5人/クラス
103.0%

[教育年度:9月スタート、( )内前年比]

陽射しをあびて遊ぶ子供たち
陽射しをあびて遊ぶ子供たち

公園の遊具・滑り台、保育園との一体使用可
公園の遊具・滑り台、保育園との一体使用可

公園の遊具・汽車、保育園との一体使用可
公園の遊具・汽車、保育園との一体使用可


〈予告:インタビューからうかがえる保育事情〉

日本では子どもが生れ、夫婦共働きのため子どもを預ける場合に、年度当初(4月)でないとなかなか難しく、また年度当初でも、0歳児、1歳児では定員が少なくとても困った記憶がある。時には、個人で大変な金額を出して預けていた方もいる。ボローニャの保育事情をお聞きし、優れていると思われる部分や、ここはこうあって欲しいところなどを、日本の皆さんにお伝えできれば参考になるものと思われる。インタビューを受けていただいたのは、当地在住の日本女性で、イタリア人男性と結婚された方である。なかみは次号でお伝えしたい。


(注1)Comune di Bologna"Relazione previsionale e programmatica 2003-2005"(2003),p.12,p.13。 Comune di Bologna "Annuario Statistico 2001"(2002),p.65.

(注2)福田静夫「危機のイタリア 1993−1994」(1994)文理閣、p.7〜10参照。馬場康雄・岡沢憲芙編「イタリアの政治」(1999)早稲田大学出版部、126〜128参照。

(注3)馬場康雄・奥島孝康編「イタリアの社会」(1999)早稲田大学出版部、184〜188参照。

(注4)前掲書"Relazione previsionale e programmatica 2003-2005" p.12.


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