梅浩先生のボローニャだより
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第4節 10月24日、年金問題でイタリアが止まる(続報)

〈重大な当日を迎えた〉

ここ数日冷えこみは厳しい。しかも霧雨が続く。通りを歩く人は完全な冬装束である。きょうは先回報告した年金制度改革をめぐりイタリア全土で4時間ゼネストが行われる当日である。どんな様子なのか街を歩いてみた。写真を中心にした年金問題の続報である。


当日の新聞「年金でイタリアが止まる」

街角の売店で新聞を手にした。10月24日、ラ・レプブリカである(注1)。大きな見出しには、「年金でイタリアが止まる」とある。

「今日4時間スト、全都市で100の示威行動。ますます激しい挑発的な策略の中で」、「ボッシ(北部同盟):政府信任か、さもなければストか。政府:一時的減税で沈静化の方法示す」とある。

「挑発的策略」がボッシ(北部同盟)のいう政府信任問題であり、政府による一時的減税にあることが理解できる(注2)

〈ボローニャ駅まで急いだ〉


「朝8時前の金曜市、いつも通りの準備が進む。
ここはストはない」


「朝の市バス、午前は動いていた。ストは午後」


「市バス、12:30〜16:30のスト予告」

午前8時前の金曜日、金曜市はいつも通りの準備が進んでいた。ここはストはないのだと確認する。市バスは平常どおり動いていた。告知板をみると午後となっている。朝や帰宅時のラッシュ、並びに集会参加者の会場と自宅・職場の輸送のことを思えば、時間差ストもなるほどと納得する。


「午前8:14、ミラノ行きFSはまだ動いていた」


「鉄道スト9:00〜13:00を予告する電光掲示板」

8時過ぎ駅に着いた。いつもと変わりない風景であった。大きな正面の時刻表は、いつも通りぺらぺらと捲れていた。スト予定の9時過ぎからの時刻も、運行するかのように変化は無かった。列車も動いていた。

違っていたのは、鉄道ストを予告する張り紙と電光掲示板であった。ひょっとしたら、見落とす人もいるのではないかと思われる感じであった。午前8:14発、ミラノ行きFSは9時を過ぎるとその時点でどうなるだろうと心配をする。

〈金融・商店のストはどうなっている〉


UniCredit銀行も8:20〜12:20スト


スーパーマーケット・コーナドもスト、
8:15〜14:00(閉店)


ストを告知するレストラン、
開店は19:30から

ボローニャでは大きいと思われるUniCredit銀行も閉まっていた。張り紙は午前の閉店を告げていた。またよく利用するスーパーマーケット・コーナドも、中の電気は点いているが、ガラス窓を通してみえる人はだれもいなかった。

まずまず大きい庶民的感じのする居酒屋風のレストラン、ここもスト告知の張り紙があり、夕方からの開店を継げていた。ただし、個人商店の多くは平常どおり開店していた。

ここまで見てくると、それぞれの産業別にストライキの時間も異なっていることがわかる。つまり、イタリアにおける産業別労働組合の組織のあり方とも関わって、同一産業は同一時間であるかも知れないが、すべての労働組合が同一時間帯にストライキを実施し、広く言えば、社会全体がマヒ状態に陥っているわけではない。様々な産業・業種がさみだれ式にストライキが行われている。

最近では、日本におけるストも珍しくなった気がするが、過去の経験からして、組合員の参加への自信のなさをカバーすることになるのか、同一時間に行うことが強調されていたことを思い出す。時間が違っていようとも、自らの信念と責任において行動に参加しているような気がした。

〈ボローニャ中央集会への参加〉


参加を待つ銀行員


職場・グループ単位で広場に集合

午前9時半ころ銀行の近くで皆の集まるのを待っていた行員たちである。明るい笑顔が印象的であった。次は女性リーダー格の先導による中央集会・マッジョーレ広場への参加風景である。「我々もいま合流する」そんな感じのする行進である。集まってくる姿には、一種りりしさがみえた。


3大労組全国スト・ボローニャ中央集会


マッジョーレ広場を埋めつくす参加者。
舞台後から、クレーン上はTVカメラ


広場の横まで一杯の参加者

中央集会はマッジョーレ広場である。きょうはこれまでとは違い、サン・ペトロニオ聖堂とは反対側、つまりインフォーメイションのある側が舞台となった。10:20頃から11:40位までの約1時間20分である。

「きょうは、ローマ・ミラノ・ナポリをはじめ全国で一斉にゼネストが行われている」
で始まる3〜4人の挨拶並びに報告者があった。立すいの余地もないところであちこちを廻ってみた。

人が多くて演説者の顔も見えない。しかしその中の一人の声は特に朗々としていた。まさにイタリア語による吟詠である。抑揚をつけ、言葉は繰り返しつながり、次へ続いていく。私もこのようなイタリア語は聞いたことがなかった。吟遊詩人と言えば、こうだろうかと自然に思えてくる感じであった。

若者から年金生活者までいた。極めてシンプルな要求内容に、不協和音らしきものは無かった。隣に立った62歳の年金者は、「とにかく困るのよ、政府は無茶なことはして欲しくない」と言っていた。まれに見る人の多さと意思の強さに、この人たちが前回市長選挙(第2回投票)で、左派49.3%の屈辱の涙を飲んだ人たちなのか、と思った。


図書館サラ・ボルサの前の
図書館職員たち


生協農産品輸送労働者


楽団員たちが演奏と踊りで参加

 

〈イタリア全土の動き〉


ゼネスト翌日25日の新聞
「労働組合:1千万人が止まった」

スト翌日に新聞を買い求めた(注3)。「1千万人が止まる」に続き「100の都市で示威行動、イタリア産業総連盟と改革をめぐる数字での闘い、マローニ(労働大臣):対話に戻ろう。チャンピ(大統領):赤字への不安」とある。

さらに、「年金と財政法改正に反対するCgil,Cisl,Uilの3大労組は統一し、抵抗を継続する」とある。数字での闘いとは、年金受給開始年齢であり、年金額が年収の何パーセントなのかであろう。年金制度改革が、財政法改正のなかで行われるためにこの要求があわせて示されている。

スト翌々日、つまり10月26日夕刻、手元のラジオをつけた。偶然一昨日の“吟遊詩人”の声が流れてきた。約30分は続いた。さらにナポリ、ローマの集会の演説が流れる。ここまでで1時間30分は経過していた。

所要のため一端ラジオは切った。このためどこまで演説の紹介が続いたかは分からない。しかし、こうしてラジオの電波を通じて、3大労組の年金問題への意思が全国に流されていることに、改めて驚きをもった。


(注1)"La Repubblica venerdi 24 ottobre 2003" Anno 28-Numero 251.

(注2)政府の沈静化策である減税については、例えば住宅改修を行った場合に、その年度についてのみ該当者に減税を行うことであり、これをもって年金改革を納得させようとするものである。

(注3)"La Repubblica sabato 25 ottobre 2003" Anno 28-Numero 252.


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