ひゅうまん京都

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特集:支援費制度を障害者・家族の願いを実現するものに
報告1 市町村調査から見えてきたもの
峰島厚(立命館大学)
峰島厚

支援費制度をめぐる動き

■介護保険との一体化

 05年に介護保険が抜本的に見直されることになっています。その際に、支援費制度も介護保険に組み込むことが社会保障審議会の議題の一つになっています。 宮城県知事をはじめいくつかの市町村の代表が介護保険に組み込むようにアピールをし、さまざまな議論をしていますが、ここには長野県や高知県の知事は参加していません。
 また、障害者の支援費を介護保険に組み込むと、20歳以上の被保険者が保険料を払うことになり、この点も大きな問題となります。
 いずれにしても、国は年金や医療の分野での財源を減らす方向で一致して動いています。その負担分を誰が担うのかが問題で、20歳以上の負担が難しい場合、消費税の増税なども検討され、生活を直撃することが危惧されます。03.10.17

■概算要求の特徴

 国の概算要求では、支援費の根本はいじらないが、単独事業をメニュー事業化(自治体にはどんぶり勘定で予算がおり、自治体が選んで実施するようになる)しました。総額は7割減らされていますが、事業内容は8から10に増え、その結果、自治体間の格差が大きくなると予想されます。

■福祉特区の申請

 自治体の動向では、7月末に滋賀県が「福祉特区」を申請しました。現行の施設訓練費は1ヶ月単位での支援費計算となっていますが、この特区構想では日割り計算とし、グループホームが空いているときにそこを利用できる、また、入所施設利用者が帰省中にグループホームやホームヘルパーが利用できるなどの「二重利用」が可能となります。
 しかしこれを実施するためにはケアマネージメントの必要性や、利用者の私物の問題などさまざまな課題があり、利用者に有利な面と運営上の困難などの課題が残されています。

市町村調査結果について

■利用の傾向は

 今回の調査には、44市町村中27の市町村からの返答がありました。
 まず、申請数の動向では知的障害者の利用が多く、身体障害者は低くなっています。 これは高齢者が多く介護保険を利用しているからと思われます。聴覚、視覚障害者の利用が少ないのも、支援費制度で利用できるサービスがないことが要因でしょう。
 申請率 身障3・3% (全国平均3・5%)知的50・2%(全国平均34・8%) 児童40・9%(全国平均19・4%)
 一番心配されていたのは、「申請したが希望通り決定が出ない」ことでしたが、申請されたものについては、ほぼ決定されています。また、支給量の変更も、不服申し立ても、京都は全国に比べると少なくなっています。利用者はもっと意見を述べることが必要です。

■市町村の事務体制の状況はどうか?

 全国平均に比べて相対的に事務形式は整っていますが、担当職員の配置は全国に比べて少なく、障害者家族の要望が強いケアプランの作成はわずか3市のみとなっています。
 支援費は困ったときに相談するのではなく、どのサービスを利用するのかを決めて申請するので、申請するまでの相談や、利用できる事業者選びや契約などの斡旋調整が必要になります。
 しかし、市町村はその仕事をしていないので、障害者や家族が使いにくくなっています。生活支援センターで作っているケアプランを参考にしてより豊かな自分のケアプランを作る必要があります。
 また、市町村の窓口で十分相談に乗ってもらうような働きかけも必要です。

■支給の決定方針はどうなっているか?

 支給決定の基本的な考え方は市町村で大きく違います。希望量を申請しても利用できるものしか決定がおりない市町村は50%、「ケースごとに判断」して支給決定に反映させているのは90%です。40%の市町村が独自基準をもっていて、全国平均より上回っています。この傾向は地域差をより大きくしていると思われます。
 また、他市町村との「斡旋、調整、利用要請」については、「調整会議」を実施しているところはわずか一市町村だけで、全国平均14・7%に比べると非常に少なく、担当者が個別に調整している現状があります。
 運用基準についても、障害者家族から要望の強い拡大運用や二重利用についても柔軟ではありません。通学、通所の移動介護活用についても柔軟に対応しているのは25・9%で全国平均46・8%に比べると低くなっています。
 障害者・家族の願いに応えた制度にするためには実態に応じた柔軟な対応を要望していく必要があります。

■市町村の単独事業の状況はどうなっているか?

 市町村の単独事業は、全国に比べると実績があり、全国平均より高くなっています。
 しかし、「従来通り実施する」は40%、すでに「一部廃止」している5市町村、「検討中」は6市町村となり、単独事業をなくしていく方向は全国平均より高くなっています。

■基盤整備の状況は?

 障害者の自立生活を支える4つの居宅事業(居宅介護・デイサービス・ショートステイ・グループホーム)が揃っているのは5市町村です。通所施設が不足しているのは12市町村あり、入所施設が不足している市町村は15あります。利用したくても基盤整備の遅れから利用できない地域が多く存在しています。
 今後の見通しにおいても、障害者基本計画の数値目標があるのは6市町村(22・2%)で全国平均29・9%より低くなっています。支援費申請状況を「数値目標に反映させる」市町村はわずかに1市町村だけという状況です。

解決すべきいくつかの課題

■障害者・家族への制度の周知がもっと必要

 措置制度と違い、「自分で選ぶ」支援費制度の考え方を広め、利用できるサービスがわかる様に、指定業者のリストだけでなく、空きの情報なども必要です。また、市町村が障害者、家族の求めに応じてサービス利用の「斡旋、調整、利用要請」をおこなうよう徹底させる働きかけも必要です。

■供給基盤を早急に充実すること

 支援費申請の実態を反映させて、市町村障害者基本計画を見直し、すべての市町村で数値目標を持った計画策定や早急に実施し、「利用したいけれど、施設がない、事業がない」という実態をなくしましょう。

■単独事業を、もっと拡充させよう

 単独事業を廃止する方向が強まっています。廃止するのではなく、むしろ充実、拡充することように要望していきましょう。

■審査会設置させよう

 申請や審査を担当する職員の増員や、障害者や家族の要望に応じて、担当職員が「斡旋・調整・利用要請」することや、支給決定における不透明をなくすために合議制の審査会を設置することを要望しましょう。

■圏域間の調整を

 市町村の決定に際しての国基準採用方針や、独自基準、運用基準を公開し、少なくとも圏域で障害者の願いに応えられるような調整が必要です。

*    *    *

問題が改めて明らかになりました。利用者の声をあげていきましょう。

報告2 申請者アンケートから見えてきたもの
上山直人(きょうされん京都支部)
上山直人

 このアンケートは、この7月から8月にかけて、京障連やきょうされんを通じて配布しました。
 その内容は、@居宅支援の申請と決定と一ヶ月の利用状況A申請に当たり相談したところや対応についてB自由記述となっています。
 集まったアンケートは百五十三(うち申請数は百十六、申請していない三十七)。年齢は20、30歳代が多く、障害の程度は療育手帳Aが96人と多く、身障手帳は一級が28人。居住地は京都市が50人、府下が64名でした。
 特徴的な結果は以下のとおりです。

@ 支援費制度になりサービスを新たに利用した人が40%あり、「ヘルパーさんと楽しく話しながら利用しています」など、「利用してよかった」の声も寄せられています。
  
A 移動介護を利用している人は30%、希望しても利用できない現状がわかります。 32時間という上限が定められている京都市ではもっと利用したいという要望が出されています。一人ひとりの状況に応じた判断が必要です。
 土日の利用が混み合っていて利用しにくい、また、新規での契約が難しいことも明らかになっています。
 男性介護者が少ないことやヘルパーのサービス内容に対しての不満や専門性をもっと高めてほしい、そのための指導についても改善を求める声が上がっています。
  
B ショートステイは契約にあたり、1ヶ月前に予約しても、実際に利用できるのかがわかるのが前日になったり、訓練のために利用したいと思っても「困ったときに申請してほしい」と緊急時しか対応してもらえないところがあります。
  
C 制度がよくわからないという声は多く、利用にあたってはケアマネジメント機能が必要と考える家族の切実な声があがっています。
  
D 子どもの障害が重く、ヘルパーに任せられない、発作がありショートステイの申請を見合わせているなど、「利用したくても利用できない」現実への怒りの声も寄せられています。
  

自由記述から見えること

 アンケートには36の自由記述の記載がありました。 実際に利用しての感想がリアルに書かれています。一人ひとり支援の仕方が違い、それにあわせた、利用しやすい制度にしていくことが必要です。
 利用者のすべての声を大切にして、支援費制度が使いやすいものになるよう、このアンケートを生かしていきましょう。

自由記述から

ショートステイを希望しましたが空きが無く断られました(京都市)
  
障害者夫婦で家事援助を利用しているが、65歳以上になると介護保険で費用負担が心配(京都市)
  
男性ヘルパーが少なく、トイレ介助ができないので断られた(長岡京市)
  
何ヶ月も前から予定を組み申し込んでいるのに、削られたり変更の依頼があったり、早ければよいものではないといわれ怒りを感じています(向日市)
  
支援費になってから行政が親身になって相談にのってくれず事業所に責任を押し付けている感じがします(福知山市)
  
ヘルプの時間は30時間ですが、介護者2人必要なので実際15時間しかありません。5時間ずつ使うと3日しかありません。長期休暇の時期もあり、何とかしてほしい(大山崎町)
  

会場からの発言

■いつまで親がするの

 養護学校6年生の子どもにホームヘルプやショートステイのサービスを利用している。最初の頃は利用しやすかったが、現在は一週間前やもっと早くに事業所に言わなくてはいけない。「もし断られたらどうしよう」と思うとお願いするのに気分が重い。この先ずっと親がコーディネーターをしなくてはいけないのはしんどい。(保護者・亀岡市)

■ネットワーク調整会議ができた

 10月からグループホームを立ち上げた。ヘルパーサービスを利用し、入浴や家事援助を受けている。「作業所からかえってホッコリしたい」という本人の要望に合わせて時間など柔軟に対応してくれている。これを契機に事業所、行政、作業所で調整会議をもつことができた。(作業所職員・京都市)

■ガイドへルプ事業の充実を

 現在京都市にはたかがみね支援センターに二百人が登録している。京都府は七回講習会を開き三百名が登録されているので、ほとんどがここに所属している。実際は不足しているので、もっと養成が必要。
 支援費は申請したけれど、どこと契約してよいかわからないという現状、とりあえず申請して、情報はインターネットで調べるという妙な状況が生まれている。(障害者自立・外出支援団体ゆうりんの家・京都市)

■利用までには大きな壁がある

 「中丹福祉と教育を豊かにする会」で何度も支援費の学習会をし、実態を交流している。
 重度の子どもを育てるお母さんから「決定は下りたが子どもの障害が重くて契約できなかった。保護者と一緒にならOKとなり、何回かヘルパーさんと一緒に出かけたが、対応もまちまちで疲れてしまう。実際使いたいが、使う方が疲れることもあるので困っている」との発言や、若い保護者は積極的に利用するが、作業所に通う高齢の保護者にとっては、家に来られる抵抗感もあり、思い切って使えない壁がある。(作業所職員・福知山市)

■児童デイサービスは課題が山積み

 5月から新しく開所した児童デイサービス「パーチェ」では、児童相談所から子どもが送られてこないので、運営が厳しい。 保護者にとっては児相へ申請に行くこと自体、ハードルが高い。保健所でも保護者にすすめにくいようで、現状は私的契約児が多い。
 申請しても決定まで二、三ヶ月もかかり、保護者も事業所も負担が大きい。支援費制度になり、早期発見・早期療育の後退を許してはいけない(児童デイサービス職員・京都市)


 
 


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