第10回(05年10月号)
生 沢 順
小百合が、センター試験まであと半月余りとなり、追い込みに入りさぞ疲れているだろうと思い、好物のラーメンをつくり持っていくと、政雄は机の上で居眠りをしていた。
律儀なもので、新聞配達はまだ続けていた。
もうやめなさいと言っても、これから掛かるであろう出費に備えてバイトを続けている。居間のテーブルの上の貯金通帳とにらめっこをしている。
小百合も、政雄が生まれてからずっと毎月三千円を、何かの時の足しにしようと考えて、積み立てている。しかしながら、学校の行事、修学旅行、成長に合わせての衣服の購入などで、その都度おろして使ってしまうので、残金は少ない。
学資保険の満期分を合わせても不足する。
二人の障害基礎年金、児童手当、夫のわずかな給料が収入のすべてで、そこから家族三人の生活費を賄っている。
いろいろ補助制度はあるが、いずれも額は低い。
テレビのワイドショーなどに、セレブと言われる娘息子が出てきて、
「一日で百万円使っちゃった」などと平気な顔をして言うのをみると、小百合は不愉快になる。そんなお金、家のどこをさがしてもないなどと一人でぼやく。小百合は腹が立つが、男二人は暢気そうに根っころがっている。
政雄の入試が終わるまで、ぴりぴりした神経は休まりそうにない。思うようには働けないし、こんな時ほどぼやく仲間がいればいいのにと切実に思う。
おしゃれも我慢して、節約にも節約を心がけ、突発的な出費に備えているが、弱いものほど社会に対する抵抗力が弱い。それを守るのが政治の力であるはずだと小百合は思う。
そんな中でも、政雄には学校で不自由な思いをさせたくないと思ってきたが、それでも三回に一回しか買い与えることが出来なかった。
小学校五年生の頃だったか、ファミコンが流行っていた。政雄は家庭の事情を理解していたのだろう、買ってくれとはねだらなかった。その結果、持っていないがために仲間はずれになり、いじめにあっていたようだ。そのことを親には話さず、いじらしいほど顔煮出すこともなく過ごしていた。
それを小百合が知ったのは、終業式の前日、担任との面談の中でのことだった。小百合は悔しさで涙が止まらなかった。その日がクリスマスイブだったので、ファミコンを買って枕元に置いてやった。毎日の生活の中でハンディキャップがあると感じたことはなかったが、息子にまで影響を及ぼしているのかと思うと情けなかった。
誰もが等しく教育を受ける権利が憲法で定められているのに、低所得の家庭ほど学費負担の比率が高いのは明らかに不平等だ。人の親なら子どもには同じレベルの教育を受けさせたいのが当然だと小百合は考える。
(続く)
|