(05年10月号)
エイジアン・ブルー 浮島丸サコン
〈戦後50年〉・・。多くの若者にとって、それは実感をもって身に迫る問題ではない。京都の大学生、西原優子は、そんな若者の一人だ。
優子が、助教授・林に提出したレポートが思わぬことにつながっていった。浮島丸事件について書いたそのレポートは、実は優子の姉、律子が書いたものだった。
林は在日朝鮮人2世で、敗戦直後多くの朝鮮人を乗せて帰国途中、舞鶴湾で謎の爆沈をとげた浮島丸事件への関心はひとしおであった。また優子のレポートには詩人・高沢伯雲の手記が引用されていたが、伯雲は尊敬してやまない人物だった。
驚くべきことに、律子、優子は伯雲の娘であり、彼は二人の娘をおいて家を出て、行方不明のままだという。
林と二人の姉妹は伯雲の足跡を追う旅に出た。行き先は浮島丸事件の犠牲者が働かされていた青森県下北半島。三人は、下北で当時を知る人々の話を聞き、50年前の伯雲と多くの朝鮮人の苦難の時代を知ることとなる。
その後三人は、舞鶴市民が建立した浮島丸事件殉難者慰霊の碑に向かい、現地で伯雲に出会う。「一緒に住もう」と呼びかける娘に対して伯雲は「自分はあの出来事をまだ忘れられない。忘れっぽいのはアジアでも日本人だけだ」と突き放す。・・・
映画は、45年8月24日、京都・舞鶴湾で起きた謎の爆沈事件(浮島丸事件)の背後にある、日本の植民地支配の歴史、強制連行・強制労働の過酷をリアルに描き出す。同時に、被害者の側に身を寄せ、体制の横暴と共にたたかう日本人の姿にもスポットを当てる。
戦後50年にあたる95年に完成した作品だが、10年経った今日においても問題提起の鋭さ、新鮮さを失っていない佳作。
今回の上映会は監督の堀川弘通さん、脚本の山内久さんを招いての企画。作品の鑑賞とともに日本映画界の長老二人が、戦前の蛮行を今なお精算仕切れない現在に対して何を発言するかも魅力。
山上周一 監督/堀川弘道 脚本/山内久・今井邦博
出演/藤本喜久子・山辺有紀・益岡徹・隆大介・佐藤慶など
挿入歌/清河への道」(新井英一)
【95年/カラー/ 1時間51分】
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